013
「誰がズルイって?」
「お嬢様です。貴方はいつもズルイです。俺の感情、俺よりも先に分かってしまうし、初対面の時だって俺を捕らえて…なんかもう、俺、お嬢様に首ったけです」
「イイコトジャーン。それにズルイのはお互い様。菜月だってズルイよー?」
キツク後ろから抱きしめて、いばらは菜月を「ズルイ」と言う。
自分の何がズルイのか、菜月には見当が付かない。ムッとしたまま菜月はいばらに自分の要求に対する返事を聞く。いばらはクスリと笑声を零した。
「ちゃーんと責任とってよぉー? 勝手に辞めたり、実家に帰ったら赦さないからねぇ」
ようやく菜月の機嫌が上昇する。
いつものように笑みを浮かべて振り向いた。
「勿論です。お嬢様」
「菜月って昔のように笑わなくなったよねぇー。昔は無垢で能天気な笑顔作ってたのに、今は縛り付けるような笑顔作るよぉ?」
「お気に召しませんか?」
「んーん。あたし的に今の笑顔の方が好きだよぉ」
自分の笑顔は束縛するようだ。主人の言葉をそっくりそのまま返してやりたい。
今、自分に向けてくる主人の微笑みは薔薇色の鎖のようなのだから。
「お嬢様、俺達はどういう関係でしょうか?」
「表向きは主従関係。裏向きはー……恋人のような甘っちょろい関係じゃないねぇ。狂愛関係?」
そう言われると調子に乗ってしまうではないか。
菜月は微笑を浮かべたまま、軽く主人にキスをして言う。
「旦那様にこのようなところを見られたら即刻クビですよね、俺」
「まーだ親父のこと気にしてるの?」
「バレたら面倒にはなりそうです」
「だーいじょうぶだって。そん時は駆け落ちでも何でもすればイイんだからー」
「簡単に言いますね」
「だって準備するのは菜月だし?」
「言うと思いましたよ」
予測していた言葉に失笑して菜月はいばらに体重を掛ける。
「重い」文句を垂れてくるいばらに構わず菜月はそっと息を吐いた。
「あーあ、明日が憂鬱だなぁ。俺、我慢できるか自信ないなぁ」
文句を垂れる菜月にいばらは一言。
「あーたしの方が我慢できなくなって飛び出すと思うから、その時は宜しく」
途端に菜月は満面の笑顔を作った。
「仰せのままに。いばらお嬢様」
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