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執事の事情


   

 * *
 

 ―――初めて仕える主人と顔を合わせた時の、捕らわれた、という感覚を鮮明に覚えている。 

 
 自分がこの仕事に勤めるキッカケは単純。母の入院費と生活費を稼ぐ為だった。

 それは突然のこと。
 何の前触れもなく母が倒れ、重病を患い入院した。



 原因は過労。



 自分の家には父親がいない為に母が仕事に育児を切り盛りしていくしかなかった。
 しかし自分を含め子供は3人。母親は1人。どんなに自分達が母親の家事を手伝おうともデキることは限られており、祖父がある程度、母を助けてくれても生活状況は苦しかった。

 母を助ける為に上の兄姉二人は学校を辞め仕事に勤しむようになる。


 幼かった自分も同じように学校を辞め、家事の一切を受け持ったが生活状況は変わらず苦しい状態が続いた。


 そんな中、母が倒れた。

 苦しい生活状況に追い打ちをかける出来事だった。


 切羽詰った生活状況での、母の入院は家計に大打撃だった。
 無論、自分達は金銭事情以上に母の容態が心配でならなかった。
 
 幼い自分でも分かるほど、兄姉の収入では母の入院費・治療費等々を賄えない生活事情。
 呑気に家事をしている場合じゃないと思い始めていた矢先、祖父が働いている貴族の屋敷から執事の募集をしていると話が舞い込んできた。
 自分のような子供でも執事見習いとして仕事が勤まると話を聞き、願ってもいないチャンスだと祖父に執事になりたいと頼み込んだ。


 当時、祖父を始め兄姉に猛反対を喰らった。

 
 執事の仕事はハードで体力勝負。

 自分の体力は自他共に認めるほど絶望的。
 執事の仕事なんてデキる筈がないと口を揃えて言われた。

 しかし自分も仕事をしなければやっていけない程、家計は苦しく下手すれば一家揃って路頭に迷うことになる。菜月だって分かっていた。だから志願した。


 だが兄姉の猛反対は凄かった。


 仕事を舐めるなだの、無理だの、初日で倒れるだの、迷惑が掛かるだの、祖父の顔に泥を塗るだの、心配故の反対がただの毒言に変わるのは時間の問題だった。
 
 おかげで大喧嘩にまで発展した。
 見兼ねた祖父が仲裁に入るほどの大喧嘩だった。合間合間に祖父も考え直すように言ってきた。

 それでも兄姉の反対を押し切り、祖父に無理を言って自分はこの仕事を選び家を出て来た。
 猛反対を喰らい、半分意地張って家を出たような気がする。
 

 でも実を言えば、ある程度、母の入院費と生活費を稼いで、生活に兆しが見えてきたら辞めるつもりだった。


 地元に帰って家族とまた暮らすつもりだった。





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あきゅろす。
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