003
「菜月は八年程前からお嬢様の執事をこなしているから、予定キャンセルなんて今更だろうな」
「八年も前から執事をしてるんですか?!」
「フウム。確か菜月は12の時に、この屋敷に来たんじゃなかったかな」
12の時からアノ我儘令嬢と一緒に居た、だなんて想像も付かない。
あかりは「よくクビになりませんね」と本音を漏らす。
するとネイリーはまた笑い声を上げた。
「確かに傍若無人なお嬢様の行為の数々に、菜月は過去に一度、解雇されたことがあるぞ。傍若無人な行為を普通ならば止めるべきところを、菜月は何だかんだ言いながらお嬢様の我儘に付き合っていたからなー。菜月ではお嬢様の執事は不適材なのではないか? と、旦那様が執事の解雇を下して、他の仕事に就かせることにしたのだよ」
「し、執事、解雇されちゃったんだ」
そりゃ我儘に付き合ってばかりだったら解雇されるのも無理はないだろう。
心底同情して手毬が「それでどうなったの?」と、ネイリーに聞く。ネイリーは笑いながら話を続けた。
「旦那様はいばらお嬢様に黙って解雇を下した。菜月も仕方ないと踏んだんだろうな。お嬢様が責を感じると思って解雇されたことを告げないまま新たに与えられた仕事に就いたんだ。そしてお嬢様のところには新しい執事が派遣された」
昨日までいた執事が、新しい執事に代わったのだ。
必然的に事の成り行きが分かる。
「事を知ったお嬢様は怒り狂ってな。旦那様のいる部屋に怒鳴り込んで硝子は割る、物は壊す、部屋は大惨事になったそうだ。勝手なことをした旦那様に腹が立ったんだろうな。しかし旦那様は撤回しなかった。撤回しないことを知ったお嬢様は、今まで以上に傍若無人になった。すると派遣された執事の方が音を上げて辞職を申し出た。何人も執事を就かせたが、結果は同じ。皆辞めていった」
「うわぁ、その執事の人達にすっごく同情しちゃう」
「困り果てた旦那様は、結局、菜月を執事として戻ってきてもらうよう頼んだ。そうしたら今までの騒動が嘘のように事が丸く収まったというわけさ」
だから菜月が解雇されることはないだろうとネイリーは語る。
傍若無人な主人の執事が勤まるのは、八年も主人に仕えている菜月だろうから。
2人は納得したように頷いた。
そういう事情があるなら、自分達の心配は杞憂にしか過ぎない。
「じゃあ、菜月先輩が1番お嬢様の我儘に付き合えるってことなんだね」
「フウム。ま、多分、それだけではないのだろうけれど」
「え? どういうことですか?ネイリーさん」
「いや。何でもない。さあて仕事しごと。今日も庭園を僕と同じように美しくしなければな!」
さっさと2人を置いて歩き出すネイリーに、疑問を抱く。
ネイリーは何を言おうとしたのだろうか。
新人メイド2人は、揃って首を傾げるのだった。
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