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002


  
 細く笑みを浮かべる主人を軽く見据え、菜月は片眉を吊り上げて口を閉ざしてしまう。黙然する菜月の雰囲気が異様に冷たく感じた。
 
 どうなっちゃうんだろう。
 新人メイドの2人は交互に視線をやりながら漂う空気にハラハラしていた。


 暫く無言になっていた菜月は開いていたスケジュール帳を閉じて懐に仕舞い、微笑。
 


「お部屋に戻りましょう。お嬢様」


「りょーかい」



 菜月の言葉の意を察し、主人は満足気に笑うと齧りかけの林檎を持ったまま木から飛び降りる。
 綺麗に着地した主人は「部屋に戻る」と、軽快な足取りで歩き出す。

「あーあ。またお小言貰いそうだよ、俺」
「あの、菜月くん。良いんですか?」
「今日の予定全部キャンセルしたら、菜月先輩のクビが危ういんじゃ」

 心配する新人メイド2人の言葉に菜月は微笑して「多分ね」と曖昧に返答を返す。
 多分ならば今日の予定をキャンセルのは拙いのではないだろうか。
 2人の心配を余所に主人は菜月に早く来るよう強要してくる。「少々お待ちを」菜月は主人に返事を返し、2人に仕事に戻っていいと詫びを口にして駆け出した。
 新人メイドの2人は主人と菜月の背中を見送って不安を胸に抱く。


 本当に大丈夫なのだろうか、そう思いながら仕事場に戻る。


 途中、2人は庭師のネイリーに会った。
 浮かない顔をしている2人にネイリーはどうしたのかと訊ねる。
 2人は先程の出来事をネイリーに話した。するとネイリーは笑い声を上げた。


「なんだ。そういうことかね」


「わ、笑い事じゃないですよ。ネイリーさん。いばらお嬢様の我儘で今日の予定全部キャンセルしちゃうってヤバいじゃないですか」
「そうだよ。ネイリー先輩!」
 

「ウーム。2人はこの屋敷に勤め始めて日が浅いから知らないだろうけれど、いばらお嬢様の予定キャンセルは今に始まったことではないぞ。もう何年も前からだ。僕はこの屋敷に勤めて始めて十年程経つが、幾度もそういう光景を目にしたな」


 素っ頓狂な声を上げて2人は驚く。
 何度も予定をキャンセルしているのか、なんて我儘なお嬢様なんだ。ネイリーは更に説明を重ねる。

 



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