015 「仕事をこなしていて、気付いたら朝ってことが多いんですよ」 「そんなに仕事回されてるのか。俺等に言えばイイじゃねえか。少しぐれぇなら手伝える」 「言えませんよ。お二人だって仕事があるのに…甘えられないじゃないですか。迷惑になりますし。職場の仲間に頼もうにも、今、修羅場で頼めませんし」 手摺に顔を伏せる菜月は、更に言葉を続ける。 「今日の集会、出ないと不味いことは分かっていました。書類片付けたら行こう思ってたんですけど、気付いたら机の上で寝ていて…時間に間に合わなかったんですよ。菊代様に適当な理由を付けて欠席させてもらったんですけど、何かもう自分の失態に嫌気が差して。気晴らしに本でも読んでいたら、床の上で寝ていたんです」 集会の欠席を白状した菜月に、柚蘭が頭を撫でた。 「そういうことだったの。菜月、それは無理してるっていうのよ」 「分かってますけどー…悔しいじゃないですか。仕事できないの。兄さま、姉さま、とても良い実績持ってらっしゃるのに。俺、2人の弟だからじゃなく、自分の実力で認められたいんです」 だけど自分にはそんな実力無いのではないだろうか。自信喪失していく自分がいる。 称号なんて返してしまおうか、そんな自分もいる。やめてしまえばイイ、そういう自分もいる。 螺月は菜月の頭を小突いた。 「テメェはそうやって、いつも背伸びバッカする。昔からそうだ。いいじゃねえか、周りに失望させれば。周りが勝手に期待を寄せてるだけなんだ。テメェはテメェのペースがある。焦んな。それにー……なんで言わねぇんだよ」 「何がですか?」 「うふふっ、螺月、お兄ちゃんなのに菜月がそうやって苦しんでたこと知らなくて、しかも何も相談が無くて拗ねてるのよ」 「拗ねてねぇよ!」 勝手に作るな、螺月は苦虫を噛み潰したような表情を作る。 顔を上げ、菜月は失笑した。 「兄さまも、姉さまも、昔からそうですよね。いつも心配して下さって」 「あら私、螺月ほど過保護じゃないわ」 「そりゃどういう意味だ柚蘭」 「でも螺月って不器用だから空回りばっかりなのよね。例えば」 「俺の話はイイだろうが!」 2人のやり取りに菜月は思わず吹き出してしまった。 「笑うんじゃねえよ」螺月が菜月の頭を押さえつけた。痛いと訴えるものの、菜月は一頻り笑い続けていた。そして晴れた顔で2人に言う。 「俺ですね。もう少ししたら、職場に移されるんです。それまでこの生活が続くと思うんですが、今、話したことで乗り切れそうです」 「そう。でも無理はしちゃダメよ。何かあったら言ってね。何も言われないと、逆に淋しい思いをしちゃうの。ね、螺月」 「何で俺に振るんだよ」 損ねた表情を見せている螺月が荒っぽく菜月の頭を撫ぜた。 だから痛いと菜月が訴えるものの、嫌がる素振りは見せなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |