004
カランッ、と遠くから鈴の音が聞こえた。2人がハッと扉の方を見る。
扉が勢いよく開かれて、ネイリーが前髪をサラッと触りながら輝く犬歯を2人に見せた。
「グーテン・ターク! 僕を呼んでくれて光栄だな! さて、僕に用とは何かね? そんなに熱い視線を送って!」
店員2人は冷ややかな視線を送っているのだが、ネイリーは気付かず「照れるではないか」と前髪を弄くっていた。
つくづく救えない吸血鬼だ。
菜月は気を取り直してネイリーに事情を説明する。
「それが、ネイリーさんにお客さんが」
「僕にお客?」
「ネイリーさん!」
赤ん坊を抱いたまま、みずほが立ち上がってネイリーの名前を呼ぶ。
ネイリーはみずほの方を見て「ン?」と首を傾げる。風花が「あんたを捜してたんだって」と言えば、さらに首を傾げた。知り合いでは無さそうだ。
「覚えていませんか?」みずほはクスクス笑いながら、ネイリーに歩み寄った。
「私です。みずほです。覚えてませんか?」
「ちょっと待っておくれ。こんな可愛らしい女性を忘れる筈ないぞ。ウーム、みずほくん。ウーム……」
「うふふっ。私、変わりましたから分からないかもしれませんね」
「みずほくん……みずほくん……ッ、みずほくん」
女性は自分のことを知っているのに、自分は全く分からない。
それがネイリーにとって悔しいことのようだ。冷汗を流して必死に思い出そうと唸り声を上げている。
そんなネイリーを可笑しそうにみずほがヒントを出した。
「出逢った場所は歩道橋です」
「歩道橋……かね」
「ええ。歩道橋でネイリーさんと出逢いました。時刻は夕暮れです」
「歩道橋。夕暮れ……あー!もしかしてッ、あの時のみずほくんかい?! 羽柴みずほくん?!」
「はい。あの時のみずほです」
ネイリーに微笑むみずほに、ネイリーが「変わったなぁ」と両肩に手を置いて笑った。みずほは照れながら「そうでしょう」とはにかむ。
ネイリーはみずほの腕の中の子供を見て「君の子かね?」と聞けば、恥ずかしそうに頷いた。
腕の中にいる子供をネイリーに差し出して抱いてみて欲しいと言う。
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