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013


 
「悪代官様『よいではないか。よいではないか』って言って、美人さんの帯をクルクルーって取っちゃうんです! 美人さん『あーれー』とか言ってコマのように回っちゃうんですから! ねーさまも美人さんですから、こんなことされちゃいます!」

 
 ズバリ! これがイヤーンなことだ!
 菜月が言い切った為に、琴月の笑いは止まらなくなった。

  
「わっはっはっはっは! そうじゃなっ、そうじゃなっ、それは大変じゃのうっ、あーおかしい」


「…俺、何処で育て方間違ったんだ? 真っ当な道、進ませていた筈なんだがっ」

「私、何だか恥ずかしくなってきたわ」
  
 
 涙を拭きながら「よく覚えとったのう」と琴月が言う。
 それはどういう意味か。琴月に訊ねれば、笑いを漏らしながら説明してくる。

「前に菜月が店に遊びに来た時、テレビを観させたんじゃ。そしたら丁度人間界の時代劇をやっててのう。さっき菜月が演技したシーンがあったんじゃ。それを覚えとったらしい」
「テレビの影響…かよ。確かに人間界のテレビってヤツ、面白いけど」
「じゃ、キュートとかセクシーとかの単語も」
「それはじいさまが言ったことを真似たんじゃろ。美人は皆、罪深いものじゃからのう。小指立てるアレも、ワシがよくすることじゃ」

 可笑しそうに笑っている祖父だが、こちらはちっとも笑えない。
 余計な単語を教えた(とはいえないが)犯人は意外な人物だった。犯人はとても身近な人物だった。唖然として2人は顔を見合わせる。
 
 座り込んでいた菜月は床に手をついたから汚れたと素っ頓狂な声を上げ、手を洗ってくる為に洗面所に向かった。
 それを見送りながら琴月は2人にそっと言った。
 
 
「最近、幼い菜月を相手にしてやれんで灯月も鈴葉も色々心配しておったんじゃが、心配なさそうじゃのう。お主等が本当に面倒を看ておるからのう。今、菜月は何でも真似たい・覚えたい年頃じゃ。何かと背伸びをするような面もあって苦労するじゃろ。菜月の性格じゃときっと背伸びばかりするじゃろうな。じゃが、大目にみてこれからも面倒看てやって欲しい」
 

 じゃが義務と思わんで欲しい。

 お主等の時間を割いてまで面倒見ろとは言わん。お主等がいっぱいいっぱいの時は、お主等に時間が欲しい時は、両親に、時にワシに頼るとエエ。のう? 柚蘭、螺月。
 

 祖父の言葉に優しさと温かさを感じ2人は返事した。
 
 
「でも俺、義務と思ったことありませんよ。あいつ、俺の弟だし…面倒看るの、嫌じゃないです」
「うふふっ、螺月は菜月のお兄ちゃんだものね」
「柚蘭…テメェ、からかってるのか?」
「いいえ。褒めてるの。でもお兄ちゃん、叩く時は出来るだけ加減しましょうね。出来るだけ叩かないようにしましょうね」
「ッ、うっせぇーな。分かってる」

 不貞腐れる螺月が戻ってきた菜月の方を見て「あ!」と声を上げた。
 またしても服で手を吹いているのだ。寝巻きに手を擦り付けている菜月も、タオルで手を拭かなければいけないことを思い出し咄嗟に頭を抱え、兄の方を見て「今度から気をつけます!」と逃げるように自分の席に座る。
 昼間と同じ台詞に舌打ちしながらも、螺月は叩くことを控えた。大体、祖父の前で叩けるわけないでないか。柚蘭にあんなこと言われたら尚更だ。
 しかし何も無いのは癪で螺月は菜月に言う。
 
「菜月、後で護身術の練習しろよ。練習付き合ってやっから」
「あ……忘れて、ました…にーさま、どうして覚えてらっしゃったんですか」
「さあな」
 
 大の苦手としている武術の練習の存在を忘れていた菜月にとって、食後がとても憂鬱だ。
 顔を渋める弟に螺月は機嫌を上昇させる。子供じみた仕返しに柚蘭は呆れる他無かった。琴月は微笑ましそうに様子を眺め3人に言う。


「これからも仲良くしていくんじゃぞ」
 

 3人は祖父の言葉に返事をした。

 これから先、喧嘩はしても不仲になることなどない―――。
 
 



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