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012


 
 早く食事をする為、3人で皿を並べていると呼び鈴が聞こえた。誰か来たようだ。
 呼び鈴と共に扉の開く音が聞こえ足音が此方に向かってくる。父母が帰って来たのではない。誰が来たか直ぐに分かり、菜月は嬉しそうに台所に入って来た人物に飛びついた。
 

「じーさま! じーさま、いらっしゃい!」

「おおっ、凄い歓迎っぷりじゃな。じいさまは嬉しいぞ」


 祖父の琴月が嬉しそうに菜月を抱きかかえる。
 人間界で店を営んでいる祖父が此方に遊びに来てくれたのだ。尊敬している祖父に2人も駆け寄り挨拶をする。交互に2人の頭を撫で元気だったか聞く。

「最近、灯月も鈴葉も仕事で忙しいようじゃからのう。心配で飛んできたのじゃ」
「ご心配をお掛けして申し訳ないです。私達、大丈夫です。でも来て下さって、とても嬉しいです」
「じじ上。よく来て下さいました。俺も嬉しいです」
「じいさまも歓迎してくれると嬉しいぞ。今日は泊まるつもりじゃから、ゆっくり話を聞こうかのう」


「本当ですか! では、後で俺に槍の稽古をつけて下さい。俺、最近また腕を上げたって言われたんです」

「私も。魔術を沢山覚えたんです。見て下さい。あ、でも先にお食事から」

 
 祖父と共に食事をすることになり、テーブルに四つ皿が並べられる。支度が出来ると四人の賑やかな夕食が始まった。
 琴月は最近のことを螺月や柚蘭に訊ねた。2人は懸命に嬉しそうに琴月の質問に答えている。
 菜月から見た兄姉は何処となくいつもよりも幼い。祖父の前ではこんな顔をするんだ。自分と同じように。菜月は得をした気分になった。
 質問は菜月にも飛んできた。両親がいなくて淋しくはないかと訊ねられ「淋しいですけどー」と、口ごもりながらもはにかんだ。
 

「にーさまやねーさまがいて下さるからヘーキです。我慢できなくなったらオフタリに甘えます」

「優しい兄姉がいて良かったのう。2人もよく面倒見とるのう」


 褒められ2人は照れくさそうに笑っていた。
 本当はさっきまで兄と喧嘩していたんだけれど。思いながらも菜月は口にはしなかった。このホンワカな雰囲気をぶち壊しそうな気がしたから。
 3人の報告に琴月は満足しながらサラダを口に入れる。
  

「3人とも成長しておるのう。じいさまは将来が楽しみじゃわい」
 
「俺、にーさまのように強くなりたいです。にーさまのようになれなくても、ワルーイオトナからねーさまを守れるくらいにはなりたいです! ねーさまは美人でオツミな人ですから、狙われちゃってオヨメさんに行けなくなっちゃったら大変です! イヤーンなことされちゃいます!」
 
「ば、馬鹿! 菜月!」
「ああ、じじ上の前でなんてことを…」
 
 
 兄姉は諌めてくるが、琴月は大声で笑った。
 悪い人のコレになってしまうと菜月が小指を立てるものだから、2人は居た堪れなくなった。よく面倒見ていると褒められた手前、菜月がとんでもないことを発言するものだから決まりが悪い。
 大笑いする琴月に、菜月は笑い事じゃないと脹れて「俺が思うに、きっとアレがイヤーンなことだと思います!」と椅子から下りた。食事中に席を立つなんて行儀が悪い、と螺月が注意するが菜月は無視して演技を始める。
  

『お代官様の好きなお饅頭にございます』
『越後屋。お主も悪よのぉ』
『お代官様ほどではございません。さ、隣の部屋に絶世の美女をご用意いたしました』
『ほぉ、ではその土産。頂くとしよう』

 
「そこでお代官様は悪代官様に変わっちゃうんです!」


『お代官様、ダメです』
『よいではないか、よいではないか』
『いけません、あ、あーれー』
 

 その場でクルクルと回り、菜月がその場に崩れる。
 軽く目を回しながらも、菜月は頭を横に振って「イヤーンなことでしょ!」と琴月に訴える。
 
 



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