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011


  
「にーさま、実は俺のことお嫌いってことあります?」
「何で俺がテメェを嫌うんだよ。俺、テメェのこと嫌いって言ったことあったか?」
「だっていっつも俺ばかり…叩くから」
「馬鹿。柚蘭を叩けるかよ…昔、一度だけ喧嘩で叩いた記憶があるが、マジ酷い目に遭ったんだぞ。それに柚蘭は女だ。女を叩いたらサイッテーだろ?」

 それもそうだ。菜月は納得して頷く。
 だけど痛いのはやっぱり嫌だ。叩くなら手加減するようにして欲しい、兄にお願いすれば「努力はしてみる」と曖昧ながら約束してきてくれた。
 本当に手加減してくれるかどうか、微妙なところだが菜月は取り敢えず安堵することにした。

「菜月。テメェもう、あれこれ考えるな。今までどーりでいいから」
「ホントですか?」
「ああ」

 頭を荒っぽく撫でられる。
 やっと心の棘が取れ、素の表情を見せた菜月は目を擦って何度も頷く。
 
「…俺、淋しくて…とーさま……かーさま…お仕事ばっかりで…にーさまも、ねーさまもいるのに……」
「もうすぐ仕事に区切りが付く。それまでの我慢だ。その分、俺達に甘えればいい。もう少しだけ辛抱しろ。な?」
「はーい」
「よし、んじゃ飯食いに行くぞ。こんな時間に寝れねぇだろ? 寝るなら食べてから寝ろ」

 上体を起こす螺月に菜月は少し考えた。
 歯磨きしたし、寝る挨拶したし、着替えたし。だけど安心したらお腹が減った。此処は素直に兄の言葉に従おう。
 ぼさぼさになった髪を整えもせずベッドから下りる兄の背を眺めていた菜月は、忘れていたとばかりに声を上げた。螺月のローブを引っ張り、言わなければならない言葉を口にする。
 

「にーさま。さっき、ヒドイこと言ってゴメンナサイ」

「て、テメェ…なんでこのタイミングに……あー…クソっ」


 チラチラと扉の方を見ている不審な兄に首を傾げた。
 兄は何処か照れくさそうに荒っぽく頭を撫でてくる。不味いことは言っていないので、菜月は気にしないことにした。手を伸ばし抱っこを強請れば、「抱っこ癖ついてるんじゃねえか」と文句を垂れながら抱えてくれた。

 部屋の景色が視界から消え、廊下の景色が飛び込んでくる。
 いつもより全てが高く見える視界にご満悦の菜月は螺月を見上げた。

「にーさま。『聖の罰と13の償い』って暗いお話でした。知ってます?」
「あ、テメ、さっきの難しい単語、それから覚えたのか? テメェには早いだろ、あれ。もっと明るいの読め」
「じゃあ今度一緒にご本読んで下さい」
「仕方ねぇな」

 台所に入るとニコニコと満面の笑顔を作っている柚蘭が皿を並べていた。
 2人が入ってくると「仲直りしたのね」と微笑んでくる。元気よく頷く菜月に対し、螺月は顔を顰め「見てたくせに」とボソリ呟く。
 そういえば兄は昔姉を叩いたことがあると言っていたが、その後酷い目に遭ったと言っていた。何をされたのだろうか。菜月がヒソヒソと訊ねれば眉根を寄せ「今度教えてやる」と返答し、菜月を床に下ろした。思い出したくも無いようだ。





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あきゅろす。
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