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010


  
 扉を閉めさっさと寝巻きに着替えると、菜月は布団に潜り込んだ。欠伸を一つ零し、気合を入れて寝るぞと目を閉じる。しかし眠れない。いつも寝る時は兄姉が傍にいるから。
 何度も寝返りを打って菜月は薄暗い天井を眺める。


「にーさまに謝ってから寝ようかなぁ…俺、嫌われてないかなぁ……お化け出ない、よ、ね」


 色んな不安が積み重なり急に恐くなってきた。とにかく寝よう。布団を被って目をかたく閉じることにした。
 ふとベッドが軋む。驚いて布団から顔を出せば、兄が呆れたような顔で自分を見下ろしてきた。「つめろ」言われて菜月は横にずれる。

 すると兄が隣に寝てきた。
 何で隣に寝てくるのか。疑問に思うが、1番思うのは、
 
「にーさま。無断で人の部屋に入っちゃダメなんですよ。ノックしました?」
「さあな。したかもしんねぇし、してねぇかもしんねぇ」
「何ですかそれー」
 
 ズルイと訴えるが、螺月は詫びる様子もなく頭の後ろで手を組み天井を見上げている。
 菜月もつられて天井を見上げた。

「で?テメェ、夕食前に何やってるんだ」
「何って寝るんです」
「こんな時間にか?」
「こんな時間にです」
「何で?」
「今から寝れば、真夜中に起きるじゃないですか。そしたら…とーさまやかーさまに、会えるかと思って。ちょっとでイイんです。お顔を見たいんです」
 
 素直に白状すると、組んだ手を解き頬杖をついて兄が見下ろしてくる。
 何も言わず見下ろしてくる兄に菜月は不安になった。
 
「お顔見たい、そう思うのは我が儘なんでしょーか?」
「かもな」

「…これも我が儘なんですか……お顔を見たいって思うのも、ダメなんですか? ダメだとしても、俺、ヨクが出ちゃうんです……我慢しなきゃいけないのは分かってるんですよ? オフタリともお仕事ですし。疲れて帰ってくるだろうし。もっと良い子にしないといけないのも分かってます…」


 何だか言っているうちに訳が分からなくなってきた。
 取り敢えず思ったことを口にしてみる。


「にーさまやねーさまがいるのにヨク出す俺って、感謝と言う気持ちを忘れていた愚者なのかもしれません。こうやって理由付けして、ぎ、ぎぃー…欺瞞(ぎまん)という逃げ道に走ってるのかもしれませんっ、アイテ!」

「テメェはそうやって直ぐ悪い方向に考え込む。誰だってそういうこと思うんだよバーカ。テメェだけと思うな。ったく、愚者や欺瞞なんざどっから覚えてきたんだ?難しい単語覚えてきやがって」

  
 デコピンをされてしまい菜月は額を擦る。
 ごちゃごちゃになった頭で、菜月は兄の言った言葉を考えるがやっぱり頭の中はごちゃごちゃだ。そんな菜月に螺月が溜息をつく。
 
「テメェが我慢してるの知ってるし、これ以上我慢しなくても良い。爆発するぞ?」
「俺、爆弾じゃありませんよ?」
「そういう意味じゃねえよ。そうやって我慢がまんしてたら、あー…余裕が無くなるっつーか? とにかくキツくなるだろうが。テメェは、たかだか五歳の分際なんだ。何でも出来るわけじゃねえだろ」

 あまり良い言い方ではないが、自分を思って言ってくれているのだと分かる。
 嫌われていないと分かり、菜月は安心と同時に歓喜が胸を占めた。だからだろう。疑問に思っていたことを聞く。





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あきゅろす。
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