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君はそう、いつも爪先立ち。


  
 
 ―――熱が冷めたのか先程から螺月の様子が忙しない。
 夕食の支度をしていた柚蘭は仲直りしに行けば良いのに、と呆れながらも何も言わない。言ったら意地を張るに違いないから。


 菜月の方も熱が冷めている頃だろう。

 あの子のことだから泣いているかもしれない。


 作業を中断して柚蘭は菜月の部屋に向かうことにした。「様子見に行くわ」わざわざ報告をしてあげたというのに、螺月はそっぽ向く始末。気になっているくせに。ホント手の掛かる弟達だ。
 
 菜月の部屋の前に立ちノックする。
 返事は返って来ない。しかし気配はする。中に入ってみると菜月はベッドの上で一生懸命に本を読んでいた。
 そっとベッドに腰を掛ける。浮き沈みしたことで菜月が気付いたのだろう。柚蘭を見上げる。


「ねーさま」

「もうすぐご飯の時間よ。その前に螺月と仲直りしましょう」


 「ご飯要りません」菜月は本のページを捲っている。
 予想していた言葉に柚蘭は微苦笑。頭を撫でれば菜月がポツリと言葉を零す。

「俺、今日にーさまにいっぱい励ましてもらいました。髪の色で兄弟じゃないって言われて悲しくて、でも…にーさまは違うって言ってくれて」
「螺月は菜月のこと嫌ってないでしょう? 嫌いならそんなことしないわ」
「でも俺、いっぱいにーさまにヒドイこと言いました」
「じゃあ、ごめんなさいしましょう? 螺月、もう怒ってないわ。ちょっと拗ねちゃってるけど」
「…ねーさま。俺、どーして我が儘を言っちゃうんでしょーか」

 とーさまやかーさまがお仕事でお忙しくても、俺にはにーさまやねーさまがいます。
 いつも遊んでくれて、お傍にいてくれて、おべんきょーも教えてもらって、スッゴク幸福なことなのに。オフタリがいなくてもちっとも淋しくないハズなんですよ。

 だけど俺、ヨクが出ちゃうんです。

 にーさまやねーさまじゃ足りなくなって、とーさまやかーさま、早く帰って欲しいなって思って。
 さっきはにーさまに我が儘言ってないって、我慢いっぱいしてるって言いましたけど、でも考えてみれば俺よりもにーさまやねーさまの方がいっぱい我慢してます。俺の我が儘いつも聞いてくれてます。
 

 にーさま、ねーさま、お友達とも遊ばず俺のメンドー看てくれているのに。
 
  
「分かっていたから、我が儘言わないように我慢してたのに…、今日もいっぱい我が儘言いました。サイテーです」
「菜月は頭が良いから、そうやって色々考え込んじゃうタイプなのね。けどね、菜月。菜月が今言ったことは我が儘でも何でもないのよ」
「そんなわけないです」
「いいえ、そうよ。菜月くらいの年頃の子は、そういうこと当たり前に言ってるわ。我が儘だって悩む子の方が少ないわ。私や螺月だって菜月の年頃の時は、菜月と同じような我が儘言ったもの」
「にーさまやねーさまも?」
 
 「そうよ」柚蘭の笑みに菜月は目をキョトンとした。
 何度か瞬きした後、嘘だとばかりに不貞腐れるが本当だと柚蘭は微笑む。

「小さい頃から私には螺月がいたけれど、やっぱり兄弟と親じゃ違うわ。2人で『早く帰ってこないかなー』なんて言ってたくらいなんだから。淋しくて淋しくて、午前様帰りになるって知った時なんて2人で泣いたわ」
「…にーさま、ねーさま、泣くんですか?」
「あら? 泣かないと思ってた?」
「だってオフタリともお強いから。俺、泣いているお姿なんて見たことありませんよ?」
「うふふっ、実は弱いのよ。私も螺月も。菜月の兄姉だから見栄張ってるだけ」
「俺の兄姉だと見栄張るんですか?」
「だって菜月、嫌じゃない? 弱いお兄ちゃんにお姉ちゃんって」

 そんなことないとばかりに首を横に振る菜月だが、「私が嫌なの」と柚蘭は微苦笑。
 よく分からないと菜月は首を傾げるが、末っ子の菜月にとって一生分からないことかもしれない。

 ご飯が出来たらまた呼ぶと言い、頭をもう一撫ですると腰を上げる。

 その際、ご飯までにちゃんと螺月と仲直りしておくよう言った。
 菜月は唸り声を上げて、本のページを捲っていた。「キラわれてたらどーしよう」そんな幼い不安を聞いてしまい、柚蘭は笑いそうになったが必死に堪え部屋から出る。


「上になると見栄を張りたいわよね」

 
 菜月の部屋の直ぐ近くにいた螺月に微笑む。
 「ウルセェな」頭部を掻いてそっぽ向く螺月に此処で何をしているのか聞く。
 手洗いに行く為にたまたまを通りかかった、と不器用な言い訳を並べる弟に、柚蘭は「早く仲直りしてね」と笑いを殺しながら台所へ戻って行く。
 笑われた螺月は軽く舌打ちをし、一の字に口を結んで佇んでいた。
 本当は弟の部屋に入りたいのだが、どうも入るタイミングが掴めず結局自室へと向かってしまうのだった。

 



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あきゅろす。
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