002
鼓膜破れるくらいの怒声に菜月は耳を塞いだ。「そこまで怒らなくても」ボソボソと反論してくる。
称号天使になった以上、集会に出席ことは常識中の常識。それが分からないような年頃では無いくせに。嗚呼、何処でどう手の掛かる馬鹿弟になってしまったのだか。
育て方を間違ったかとこめかみを押さえながら、螺月は菜月を見下ろし再び怒声を浴びせる。
「テメ、まさか此処で本読んでたのか?! あ?!」
「いやー……あははは」
「こんの馬鹿がぁあああ! 集会欠席してッ、何してやがったぁあ!」
「何してたんでしょうね…あははは」
「あら、理由が無いのに休むのかしら?菜月」
ひやりと冷たい声。
扉の方を見ると満面の笑顔を浮かべている姉。オーラはとても冷たい。怒っているのだと直ぐには分かった。
菜月は誤魔化し笑いを浮かべていたが、姉のオーラに表情を強張らせていた。
「こ、こ、こ今度はちゃんと出ますから! それで見逃して下さい」
「称号天使がそんな言い訳で通用すると思ってるのかしら?」
手厳しい言葉だがご尤も。
誤魔化し笑いをしていた菜月だが、言い訳では逃げられないと察したのだろう。それならば! と、素早く立ち上がり本の山を思い切り蹴る。山は安定を崩し、目の前で本の雪崩が起きた。
巻き込まれないよう後ろに下がった螺月は、本の雪崩で見えなくなった末弟の姿を目で探す。
悲惨な部屋を見渡し、螺月は大きく溜息をついた。
菜月は雪崩が起こった隙に窓から逃走したようだ。
「逃げやがった…あの馬鹿が」
「はぁー……折角、称号を得たのに集会を欠席するなんて。部屋もこんなに散らかして」
床に散らばっている丸まった紙を手に取り、そっと開く。
中身は報告書のようだった。途中間違えたのかグルグルと文字が線で消されている。その下には赤で文字が書き殴られていた。
やめようか
筆跡からして菜月の字。
柚蘭は他の紙も拾って中身を見てみることにした。やはり赤で文字が書き殴られている。
『あああ』と感情のみをぶつけた文字やら、『バカ』と何かを罵っている文字やら、『どうにかなる』と励ます文字やら、文字さえも書かれず線がグルグルと書かれていたり。
字からして何かに追い詰められているようだ。どうしたのだろうか、柚蘭は懸念する。
柚蘭の様子に螺月が歩み寄ってきた。
手元の紙を覗き込み、やや眉根を寄せると吐息をつき、散らかった本を拾い片付け始める。
「片付けてやったこと、後でネチネチ言ってやる。ったく、逃げやがって。あの馬鹿が。何かあるならハッキリ言えってんだ」
不器用ながらも心配を口にしている螺月に、柚蘭は微笑して片付けを手伝うことにした。
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