008 「言いたいことを、お互い言い切ってないのです。見ていて歯痒いこと極まりない」 「そうなんですか?」 「ええ。日常会話ぐらいは、普通にできるようになりました。けれども肝心なところで、どちらも2歩3歩引いてしまって。わたくしが何度、そのことで語ったことか」 「遠慮しなくてもイイじゃん? あんた達、あいつ等の親なんだからさ。言いたい事は言っちゃっても」 「そう思っていても、息子達は、まだ自分達のことを“見捨てた親”と心の片隅で思っている。それは否定できない。不本意でも、自分達は見捨てた同然だからな」 子供達を一瞥して、坤は失笑する。 目を伏せ、伊綱は子供達の頭をそれぞれ撫でながら吐息をついた。 「この子達、やはり私達を拒絶することがあるんですよ。時々ですけど」 「でも、あんた達をちゃーんと『とーちゃん』『かーちゃん』って呼んでくれてる。それって、少しずつだけど受け入れようとしてるってことだろ? 違う?」 「……しかし」 「坤さん。伊綱さん。大丈夫ですよ。貴方達は、今こうやって子供達と精一杯向かい合ってるんですから。過去の傷は、貴方達の愛情で癒える日が来ます。きっと。だから、遠慮しないでイイと思うんです。遠慮すれば、子供達を傷付けることだってあるんですから」 「そーそ。あたしなんか、いつも菜月に愛情注いでるのに遠慮されてさ。密かに傷付いてるわけよ。ダーリン……冷たいって」 「え、えええっ?! そーなの?!」 深々と頷いている風花に、菜月があたふた焦っている。 その光景を可笑しそうに坤と伊綱が見ていた。 近くでは、子供達が静かな寝息を立て幸せそうな笑みを浮かべている。 きっと子供達は良い夢を見ているのだろう。むにゃむにゃと寝言を言いながら、3人とも幸せそうに丸まって眠っていた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |