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006



「あー気持ち良かった。やっぱお風呂と温泉って違うよなぁ。それにしても惜しかったなぁ。あとちょっとで、覗けたんだけど」 
「やっぱり覗こうとしてッ……途中、何だか視線を感じた気がしたのは、気のせいじゃなかったんだね」


「でも見えなかったんだって。湯気は見えたけど」
「見えなくてイイです。というか、見ないで下さい。そんなに良いモノでもないんでっ」
「じゃ、あたしの」


「見ませんッ!」

 
 温泉から上がってきた2人の会話は騒々しかった。他の客がいなくて良かったと思うほど、騒々しかった。
 一方的に菜月が煩いだけなのだが。

 勿論、風花はただ単に菜月をからかっているだけだ。それが分かっているからこそ、菜月もムキになるのだ。
 伊綱に浴衣の着方を教えてもらったのか、それとも浴衣を着させてもらったのか、どちらか分からないが風花はキッチリ浴衣を着こなしている。菜月は以前祖父に教えてもらっていた為に、ある程度は自分で着こなせていた。

 騒がしい会話を交わしながら自分達の使っている部屋に戻ると食事はもう用意されていた。豪勢な食事に2人は歓声を上げる。


 しかし、2人で食べるには量が多いような。半端なく多いような。

 
「……あ、しかもお稲荷さんがあるよ。風花」
「お稲荷。といえば、油揚げッ!」
「油揚げの件、どーにかしないとね。毎月3箱、送られてくる油揚げはちょっとキツイし」
 
 遠目を作って2人が稲荷寿司を眺めていると、子供達がやって来た。
 それぞれお皿を持っている子供達は、「いっしょたべるのー」と2人に言ってくる。


 コレで納得した。

 だからこんなに料理の量が半端なく多いのだ。


「とーちゃん。かーちゃん。おばーたまのぶんもある! ホラ、いっしょーけんめーもってきた!」
「おれだってもってきたぁ!」
「ぼ、ぼくもぉ。おいなりさんだって、ちゃんとつくったし」
「おれもつくったー!」
「凄いね。偉い偉い」
 
 喧嘩にならない内に、菜月が3人の頭を撫でれば子供達が満面の笑顔を作る。
 しかし、ふとコン次郎が呟いた。

「……とーちゃん。かーちゃんにも、なでてもらえればイイのに」
「え?」
「あ、え、っと。なんでもなーいぜ!」
 
 エヘヘと笑うコン次郎につられてコン太郎とコン三郎も笑った。明らかに誤魔化し笑いだ。

 2人は顔を見合わせた。
 彼等の関係、上手くいっているように見えているのだが、もしかして上手くいっていないのだろうか? 


 不安が脳裏を掠める中、ちとせがやって来て膝を折って頭を下げる。


「申し訳ございません。子供達が聞かなくて。ご一緒にしても宜しいでしょうか?」

「モッチロンさ。飯は大勢で食った方が美味いし、あたしと菜月だけじゃこの量は食べきれないって。坤や伊綱も呼んで、みんなで食おう」

「はい」

 
 ちとせが笑みを浮かべると坤と伊綱を呼びに立ち上がる。
 子供達はお腹が減ったようで、ジィーッと料理を見ている。そんな子供達には笑ってしまったが、それでも先程コン次郎が言った言葉が脳裏にチラついて離れられなかった。





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