005
引っ張られるように子供達に案内され、辿り着いた部屋は3年前に泊まった部屋と同じだった。気に入らなければ別の部屋にすると坤が言ってきてくれた。
曰く、自分達が泊まるということで旅館を貸切状態にしてくれているらしい。
何処の部屋を使っても構わないと坤が言ってくれるのは有り難いが、何も貸切状態にしてくれなくても。
こちらが気を遣ってしまう……なんて、風花と菜月は密かに空笑いをしていた。
部屋に着くなり伊綱が先に風呂に入るよう進めた。
此処まで来るのに汗を流しただろうから、と2人のことを考慮してくれた提案だ。
やはり、旅館といえば、温泉。
3年前も温泉に入った記憶がある。
風花は伊綱の言葉に頷くと、目を輝かせた。
「菜月!」
「すみません、伊綱さん。風花に浴衣の着方を教えてあげて下さい。それかしてあげて下さい」
「はい。分かりました」
「って、え〜〜〜! あんたが教えてくれるんじゃないわけ?! ってか、温泉は勿論」
「此処は男湯女湯に分かれてるでしょ! 一緒には入れません!」
「だって貸切だよ? 別に。ねえ、伊綱。ちとせ。坤。イイだろー」
「こちらとしては別に構わないが」
「俺が良くないです!」
ちぇっ。風花が舌打ちをする。ケチ、ケチ、ケチ、と菜月に聞こえるよう文句を垂れる風花。
しかしこればかりは菜月も譲れない。「聞こえなーい」と風花の文句を遮るように、耳を塞いで菜月はそっぽ向いた。
すると風花が「じゃあ」と真剣な面持ちで菜月に言う。
「あたしが男湯に押しかける。これでイイだろ」
「っ、良くない、か、ら!」
「何が不服なわけぇー? じゃあ、あんたが女湯に来る?」
「だから別々に入ろーって! じょ、じょじょじょ女性と一緒にお風呂なんて入れません!」
「はぁー……菜月の生肌見れるチャンスなのに。いいよ。覗きで我慢するから」
「ッ……覗きは立派なッ、犯罪です!しかも生肌ってッ?!」
「なあなあ、ナマハダって? ノゾキって? ハンザイって?」
2人の遣り取りを見ていたコン太郎が、首を傾げて2人に訊ねる。
風花は「それはねぇ」と教えようとするが、菜月が両手で口を塞いで「お風呂って何処かな?」と誤魔化した。
坤達には盛大に笑われてしまい、菜月は非常に恥ずかしい思いをするハメになる。対して風花の胸の内ではまだ「一緒に入りたいな」と思っていた。
明日もあるし、明日にでも……なんて良からぬことを考えていたことは、菜月には内緒だ。
子供達が一緒に入りたいと主張してきたが、伊綱から「お手伝いしてね」と上手く諦めさせていた。それどころか、伊綱は「美味しいお料理、2人に食べてもらいましょうね」と言い、子供達のお手伝い意欲を湧かせることに成功する。
美味しい物を作るから! と子供達は2人に言い、早く風呂に入ってくるよう言ってきた。
急かされた2人は「分かった分かった」と言いながら、温泉へと足を向けたのだった。
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