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003



 二人の目の前に現れたのは『お稲荷亭』と看板に書かれた小さな旅館。
 大切な懐かしさを思い出させてくれるような小さな旅館を訪れたのは、今回で二度目。


「3年ぶりだね」

「ああ。3年ぶりだよ」

 
 懐かしいとばかりに目を細め、大きく息を吸い吐き出した二人はゆっくりと旅館に足を踏み入れる。
 中に入ると「お待ちしておりました」と大女将がやって来て膝をついて頭を下げる。


「林道風花さま。鬼夜菜月さま。お帰りなさいませ」
「お帰りなさい? なんで、お帰りなさいなわけ?」

「俺達は一度此処に来たことあるでしょ? 此処に来てくれたお客さんは、みんな家族も同然。だから此処を離れる時は『いってらっしゃいませ』って3年前に言われたでしょ。忘れちゃったの?」

「3年も前のことだからさ。でも、イイよな。お帰りなさいって……で、久しぶり! 女将バァさん!」

 
 頭を上げてニッコリ微笑んできたのは、稲荷ちとせ。
 此処の大女将を務めているキツネさんだ。菜月が頭を下げ「この度はありがとうございます」とお礼を口にする。

「旅館にご招待頂き、本当にアリガトウございます。3日間、お世話になります」
「いえいえ、此方こそ。突然のお誘いを申し訳なく思っております。前もってお電話していれば良かったのですが」
「全然いいって! 呼んでくれて嬉しかったしさ!」
 

 昨夜、前触れも無く旅館の招待があった。


 風花も菜月も驚いたが丁度仕事に一区切りついていた為に、喜んで誘いに乗った。
 すっごく嬉しかったと風花が笑みを浮かべれば、つられるようにちとせも笑みを浮かべる。

 女将と館主がやって来た。
 どちらも知っている顔に、風花が手を振った。

「坤。伊綱。久しぶり〜!」
「こんにちは、林道さん。鬼夜さん。ご無沙汰しております」
「ようこそ。長旅で疲れただろ?」
 
 稲荷坤と稲荷伊綱が、2人に挨拶をしてくる。
 どうってことないとばかりに風花が胸を張った。菜月は2人にも挨拶をする。

「お招き頂き、ありがとうございます」
「いえいえ。以前、ご迷惑をお掛けいたしましたので、これくらい当然です」
「そ、その、そういえば……以前、俺は、ご無礼なことを。あの時は俺、頭に血がのぼっていたというか。す、すみません」
 
 しどろもどろになって菜月が謝罪する。
 菜月が言っているのは、以前、2人が店に訪れた時のこと。菜月は2人が店に訪れ応接室で話している際、2人に暴言を吐いたのだ。(と本人は思っている)


 まだ謝罪してなかったと菜月が、あたふた謝罪すれば、伊綱がクスッと笑みを零した。


「それほど、あの子達を思って下さっていたのですから。気にしないで下さい」
「いえ、ホント申し訳ないです」
「気にするな」
「そういえば、伊綱は身体ダイジョーブなわけ? 病弱だって聞いてたけど」
「ええ。おかげ様で」
「そっか。なら、良かった。で、あいつ等は?」
「ああ。あいつ等は、今、外で」





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