012
「ネイリーさん。これから、私、あの子を守っていけるような母親になりますね」
「みずほくんなら良い母親になれるさ。頑張りたまえ」
「また、会いに来ていいですか?」
「勿論。大歓迎さ。いつでも会いに来ておくれ! さてと、これから行きたい場所は? 日和はフロイライン達に任せておけば大丈夫だから」
「そうですね。何処かでお茶でもしましょうか? ネイリーさんにご報告したいこと、沢山あるんです」
「じゃあ、喫茶店でも探すか。お姫様抱っこはしなくて良いかね?」
「それは勘弁して下さい」
以前、横抱きをされて街中を歩かれた時の恥ずかしさといったら……思い出したくも無い。
顔を渋めるみずほに小さく笑うとネイリーが行こうかと歩き出す。
みずほはネイリーの隣に並んで、恥ずかしそうに言った。
「ネイリーさん。夕暮れ時に此処を通りましょう。折角ですし」
「では、夕暮れ時に此処を通って帰るとしよう。何せ夕暮れ時のこの場所は」
みずほくんと僕の大切な出逢いの日を思い出させてくれるからな。
ネイリーの言葉に少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうにみずほが頷く。
ネイリーの言うとおり、あの時の出逢いは今になって、とても大切な思い出となっている。夕暮れ時に此処を通りたいと言ったのも、きっとあの時の出逢いを思い出したいから。
ただあの頃の記憶や感情は、今思い出しても辛くて辛くて仕方ない時がある。
やはり、誰かを喪った当時の記憶は辛い。けれど……辛いけれど、それでも、ネイリーと出逢ったあの日は大切だ。
だから言うのだ。
夕暮れ時に一緒に此処を通って帰ろう、と。
一緒にあの日の出逢いを思い出そう、と。
2人は夕暮れ時にまた此処に通ろうと笑い、他愛もない会話を交わしながらゆっくりと歩道橋を渡って行き階段を下り始めた。
相変わらず歩道橋の下では、あの日のように忙しく車たちが行き交いしている。
End
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