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012




「それにしてもてめぇ、まーじ軽いな。もう少し食えよ。食わないからチビなんだぞ」


 ほれほれ、持ち上げている菜月の体を右に左に揺らしてやる。心外だと菜月は声音を張った。


「今、頑張って慎重を伸ばしているんだよ! その内、螺月よりも背が…、高くなるのは無理そうだから、柚蘭くらいは越してやるんだからな!」

「ははっ、無理だって今の調子なら。ほーら」


 高い高い、と体を宙に投げる。
 「ぎゃああ!」悲鳴を上げる菜月は、キャッチと同時に俺の体にしがみついてきた。「ないないないっ!」何してくれるんだよっ、ガタブルで抗議する菜月に俺は大笑いする。べりっとすがり付いてくる手を剥がし、もう一度身を宙に投げると弟を横抱きにして、「どーだ」チビの特権だと笑声を漏らす。

「でかかったらもうしてやれねぇぞ? 柚蘭じゃ無理だしな」
 
「すっごい屈辱なんだけどっ。横抱きとかっ、お姫様抱っことかっ、うわっ、落とそうとするなって! ちょぉおお…おぉお? …あー…うそでしょ」
 
 菜月の声が萎む。俺も硬直する。
 リビングキッチンの向こう廊下に、聖保安部隊ご一行様がいたりいなかったり。いつの間にそこにいたんだよ。呼び鈴は鳴らしたか? 俺達が気付かなかったからって無断で入ってくるのはどうかと思うんだが。いや、一応監視下のルールだからしかたがないと言えばしかたがないんだが。
 目を点にしている千羽副隊長と、あからさま呆れた眼を飛ばしてくる郡是隊長、んでもって部下様方。見られたか今の? 見られちまったか? マージかよ。


「今日は約束の日。だから家に来たのが…、出てこないと思ったら何をしているのだ。貴様等」


 郡是隊長に聞かれたから、俺と菜月はぎこちなーく視線をかち合わせる。
 「ナニしてるって」「そりゃあね?」「ああ、そりゃあ」「王子さまごっこ」「そうそうそれ。俺は菜月の王子で!」「俺は螺月の王子だったり!」「というごっこ遊びなんて!」「年柄にもなくやってみたり!」「ははっ、参ったな!」「俺達の秘密がばれちゃいましたね!」「ちなみに柚蘭は!」「俺達の王様だったり!」

「というか柚蘭、魔王だったりするんじゃ…、笑顔で瞬殺する辺りが」

「ああ、確かに。って?! てめぇ、ナニを命知らずなことをっ。同意しちまったけど柚蘭の耳に入っ「あらあら私がなあに?」ゲッ、ゆ、柚蘭お姉さま」

 聖保安部隊の背後からひょっこり現れた我等の王様に俺と菜月は今度こそ硬直。ご一緒だったのかよ、柚蘭。
 笑顔で私のことを今なんて言ったのー? 脅してくる姉貴に俺は千行の汗を流す。いや俺じゃない。言ったのは俺じゃない、俺じゃ「螺月が柚蘭のことを鬼だって!」こ、こいつ! 我が身可愛さに俺を売り飛ばしやがったな!
 
 「菜月てめぇ!」怒鳴る俺の腕から抜け出して床に着地した菜月は、舌を出して笑いながらキッチンから逃げ出す。
 「兄貴を売り飛ばしやがって!」てめぇって奴はどうしてそう、兄貴泣かせばっかなことをするんだ! 俺は急いで菜月を追い駆ける。「元凶は螺月じゃんか!」菜月は郡是隊長や千羽副隊長の脇をすり抜け、聖保安部隊を盾にしながら逃げやがる。

 身体能力が低いくせにすばしっこく逃げる菜月はリビング側に一旦避難、そのまま開放している窓から飛び出して中庭に逃避した。
 俺も窓枠を飛び越えて、花壇を過ぎろうとする菜月を捕まえる。「うわっち!」此処まで追って来なくていいじゃないか、理不尽な文句を述べてくる菜月の首根っこを掴んで俺はニンマリ。

「我が身可愛さに、兄貴を売り飛ばしたこの仕打ち」
  
 それなりの覚悟はできてるんだろうな?

 指の関節を鳴らし、まずは逃げ腰になる菜月の頭に拳を入れる。イッタイと悲鳴を上げる菜月の脇に手を突っ込むと、そのままこちょこちょ。
 途端に菜月が堪らないとばかりに身を捩り始めた。笑声を上げ、「ごめんごめん!」謝るからそれはナシ、と身を屈める。脇腹弱いな? 俺は散々弟を擽った後、そのちっこい身を担いで捕獲完了だと笑みを漏らす。酷いと菜月はぐったり肩に凭れて膨れ面を作った。
 「イジメだ」「当然の罰だろ」視線をかち合わせると、自然と笑みが零れる。
 実は螺月っていじめっ子だろ、笑う菜月に、まさかまさか俺はいつだって姉弟思いだと、笑みを返した。素で笑ってくれる菜月に、俺自身も嬉しくてしょうがない。

 
「ふふっ。二人ともじゃれ合っちゃって。螺月、菜月、戻ってらっしゃい。聖保安部隊の方がお待ちよ」

「あ、忘れてた。菜月戻るぞ」

「って、えぇええ、下ろしてよ! 螺月下ろしてったらー!」
 


「……、いつの間にあれほど親しくなったのだ。明日は雨あられか?」

「……、ですかね」

 郡是隊長と千羽副隊長その他諸々の会話は俺たちの耳に届かなかった。




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あきゅろす。
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