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008


 

「そうか? あんま言われたことねぇけど。機嫌だっていっつも反対だ。あいつが笑顔なら、俺は不機嫌っつーか」
 
「似てるよ。雰囲気とか、目元とかさ。髪の色も入るかな。なんか、姉弟ってカンジするんだよね。二人って」

 
 なに他人行儀なこと言ってやがるんだ、お前だって俺等の弟じゃねえかよ。お前は認めてねぇかもしれねぇけど、俺等にとっては大事な弟だぞ。
 そう告げてやると、菜月は曖昧に笑って「あんまり実感が湧かないや」小さく言葉を濁す。嫌悪感は抱かれなかった。
 

「二人って俺にとって遠い存在なんだよね。なんか、何をしても追いつけない存在ってかんじ」


 俺は目を瞠った。

 でもすぐ表情を戻して、「俺達が天使だからか?」それじゃあ理由になんねぇんだけど、と控えめに返答。
 あんま天使だから、人間だからって言葉は好きじゃない。過去の俺が阿呆みてぇにそれで弟を差別していた記憶が疼くから。菜月には人間って事実を卑下して欲しくねぇんだ。人間でも天使でも血を分けた兄姉弟って事実は変わらない。
 それに俺達は人体実験された新種族でもある。だったら同じ化け物、それでいいじゃねえか。
 
 「ううん」菜月は種族のことを言っているんじゃないとやんわり言葉を否定してくる。

「器が二人とも大きいから、なんか、凄いし遠いなぁって思うんだよ。どんな時でも異例子の肩を持ってさ…、今回だって父親の一件で聖保安部隊と対峙しちゃって。手放せばきっと肩の荷が下りるだろうに」

 どうして二人はそんなにも強いの?
 菜月の問い掛けに、俺は何も強くないと即答した。自分がしたいようにした結果が聖保安部隊との対峙だった。それだけなのだと弟に吐露する。「怖いんだよ」弟を取られることが、俺は嘲笑されること覚悟で胸の内を明かす。

 
「やっと弟が戻って来て、てめぇと家族になりてぇって思ってて。そんな時に外部からの差別とか事件で、また家族が離れ離れになる。それが怖いんだよ。どんな陰口を叩かれてもいい。けど、弟と繋がりはもう二度と断ち切りたくない。てめぇを荷なんざ思ったことねぇよ」


 ―…菜月は一抹も嘲笑することはなかった。
 
 「ああほらっ」やっぱり螺月は強いじゃないか、声音を震わせて泣き笑い。
 そうやって異例子を重荷と思わないところ、家族と思うところ、繋がりを持とうとするところ、そういうところが強いのだと菜月は小さく呟いた。

 「俺さ」聖保安部隊に引き取られてもいいって思ってるんだ、菜月は続け様とんでもないことを言い出す。
 「ナニ言うんだ」怒るぞ、俺の不機嫌にも怖じることなく菜月は引き取られてもいいんだと繰り返す。そうしたら博学の天使はもう、二人のところに来ないかもしれない、弟は消えそうな声で訴えた。眉根を寄せる俺に、躊躇いながら菜月はポツリ。「傷付いて欲しくないんだ」それはそれは消えそうな声音だった。
 
 今度こそ言葉を失ってしまう。
 

「異例子は三兄姉全員、螺月はそう言ってくれた。でも、二人は異例子じゃなくたっていい。異例子は俺だけで十分なんだ。いつだって馬鹿みたいに守ってくれるからこそ、化け物は俺だけでいい。似合わないよ、お人好しの柚蘭と螺月が化け物だなんて。二人には…、フツーの天使でいてもらいたいんだ。異例子になってもらいたくないよ」


 ―――…。

 数秒、言葉と現実と俺自身を見失う。

 けど我に返って俺は肩上まで菜月に毛布を掛けなおして、目に掛かっている前髪をそっと払ってやる。「阿呆」ようやく搾り出せた悪態は、ひどく情けないものになっていた。すっげぇ泣きたい気持ちに駆られているのは、たぶん、得体の知れない激情のせい。




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あきゅろす。
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