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005


 

「あいつ、まさかガラクタを寄越したわけじゃねえだろうな。ゼンッゼン分からん代物ばっか寄越しやがって。他には…、ん? そういや朔月、人間界のインクもくれたな。んでもってこれがセットになってるペンらしいが、やけに太いペンだな」


 俺はふっさふさしているペンの先端を触りながら、どうやって字を書くのか疑念を抱く。
 
 動物の毛でできているそうだが、こんなペンじゃ手紙どころか一文字がかんなりでかくなるだろうに。
 まあ、取り敢えず、物は試しだ。インクにつけて文字を書いてみっか。なんかラベルには『墨汁』とか書いてあるけど、人間界語は読めない。暗号みてぇな難しい文字だな、これ。とにかく使用してみないと。俺はそそくさとインクの蓋を回す。
 えっらく硬い蓋だな。なんか蓋が二箇所あるみてぇだが、普通インクっつーのはこうやって蓋を取って、先端をインクにつけて文字を書くもんだぞ。
 
 力をどうにか蓋を取った俺は、中を覗き込んで中身を確認。
 インクだよな? 真っ黒い汁だし。うっし、じゃあ、このペンを突っ込んで…、ちゃんと浸ってるのか? もっとちゃんとペンを突っ込んだ方が…、よし、浸っただろうし取り出してみっ、べちゃっ。…べちゃ? べちゃ?!
 
「…ありえねぇ!」

 俺は悲鳴を上げて汚れたローブを見下ろした。まさかペンの先端からインク漏れを起こすなんて、どーするんだよこれっ! あ、やばっ!
 動揺のあまり俺はインクの入った容器から手を離す。ということは? 蓋の開いたままの容器がベッドの上でひっくり返るというわけで? ちょ、ちょちょちょマジたんっ、ばっしゃーん! ………嗚呼、ガッデム。
 
 

「―――…うふふっ、どうしたの螺月。そのローブの有様にその顔っ、うふふふっ、真っ黒じゃない」


 たまたま部屋を訪れた柚蘭に笑われてしまい、俺はうるせぇとうなり声を上げる。
 なんでこうなったか? 俺が聞きてぇよ。あーくそっ、朔月の奴、変な物渡してきやがって。見ろよ、俺のローブにベッド、顔までインクだらけだ! 柚蘭には笑われるし、マジねぇよこれ。今度会ったら覚えとけよ、あいつ。

 ドドド不機嫌になる俺にクスクス笑う柚蘭は、とにかく顔を洗って着替えるよう指示してきた。でなければ顔を見る度に笑ってしまう、と言われて俺は舌を鳴らす。好きでこんなことになったわけじゃねえぞ畜生。
 
 ぶっすりと膨れ面を作りながら俺は洗面所に向かった。で、一生懸命顔を洗うんだが、なっかなかインクが取れてくれねぇ。
 皮膚が赤くなるまで顔を洗って、どうにか顔と手の汚れは落としたものの、ローブは真っ黒だ。「これ落ちるもんかな」眉根を寄せていると、「何してるの?」後ろから声を掛けられる。い、今一番見られたくねぇ奴にっ…。
 
 「なんでもねぇよ」と言ってみるものの、鏡越しに俺の有様を見やがった菜月は、「うっわ」なにそれ、と頓狂な声を上げてくる。
 
「ちょ、螺月こっち向いて。あーあーあー、インクがこんなに…ん? これ、インクじゃない。におい的に墨汁っぽいけど。螺月、墨汁使ったの?」

 とかなんとか聞かれたら、もはや俺の部屋に連れて行って状況を見てもらうしかない。
 菜月は俺の部屋を見るや否や大惨事に絶句。次いで、此処で何をしていたのだと聞かれたから、ペンで試し書きしようとしたのだと白状する。当時の使用方法を再現してやれば大笑いしてきやがった。しゃがみ込んで、そりゃもう大笑い。
 「それは汚れるに決まってるじゃん」筆と羽ペンは違うんだから、膝を叩いて笑い続ける菜月に俺はうるせぇと膨れ面を作った。

 ヒィヒィ笑いながら菜月は、俺のベッドに放置されているカセットテープの無残な姿にもまた大爆笑。
 「これっ。螺月がしたんだろ?」絶対に扱い方が分からなかったからこうなったんだと、呼吸困難になりかけながら菜月は笑声を上げた。今の菜月は匙が落ちても笑いそうだっ、嗚呼クソッ、なんだってんだ!




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