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009


 
 人気のない公園のベンチに女性を座らせ、ネイリーは「とにかく落ち着きたまえ」と女性を宥める。
 散々叫んで疲れたのか今は大人しくベンチに座ってくれた。


 半狂乱に叫んでいた女性の名は羽柴みずほというらしい。
 名を訊ねれば、素直に返答してくれた。

 
 そのことに安堵しつつ、ネイリーが何故あんな馬鹿なことをしようとしたのかと訊ねる。
 みずほは「貴方には関係ないでしょ!」とネイリーを睨む。

「あそこで止めなければ良かったのにッ、お節介屋! 私には何も残っていないとさっき言ったじゃない」
「と、言われてもな。僕は女性が飛び下りる瞬間なんてみたくないものでね」
「信じられない。赤の他人を助けるなんてッ」
「どう言ってくれても構わない。それで? 何故、飛び下りようとしたんだい?」

 ネイリーが再度訊ねる。
 赤の他人に教える義理はないとばかりに突っ張るみずほ。困った女性だな、とネイリーが頭を掻いた。


 暫し沈黙が流れた後、みずほは沈黙に耐え切れなくなり、渋々口を開いた。


「さっきも言ったでしょ。最愛の人が死んだの。私を置いて。私にとって全てだった人が、いなくなったの」
「だから、その人のもとへ?」
「そうよっ! 悪い?! 私にとってその人が全てだったのっ! その人は事故で死んだわ。交通事故であっけなく……だからよ」
「フウム。そうか。だから……な」
「さっきみたいに同情したらどう?貴方には何も分からないくせに」
 
 最愛の人を喪った気持ちなんて分からないくせに。
 血反吐を吐くようにみずほが、ネイリーを睨んで言う。


 ネイリーは失笑して「君にそんな顔は似合わないな」とみずほの表情を見た。


「確かに、僕には今の君の気持ちなんて分からないな。同情かもしれない」
「だったら止めなければ良かったじゃない! 他人のクセに」
「何故、君は死のうとするんだい?」
「何度も言わせないでよッ! 私は」


「それで君の最愛の人が喜ぶのかね?」


 みずほがウッと言葉を詰まらせるが「放っておいて」と怒鳴った。
 押し黙るみずほに対し、ネイリーが「少し昔話をしようか」と夕空を見上げた。 





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