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表情(かお)


 

 男の気持ちのすべてを、女性には理解できないと思う。

 逆も然り。

 女の気持ちのすべてを、男性には理解できないと思う。
 

 つまり何が言いたいのかって、男女には壁があり異性の気持ちのすべてなんて理解できないということ。


 誰か男の自分に教えて欲しい。どうして女の人ってこんなにも洋服を買い込むのかを!

 
 ベンチに座っていた菜月は大きく息を吐き、両膝に肘を置いて頬杖をついた。

 己の目の前で、どんどん増えていく服の入った紙袋、ビニール袋、袋、袋、ふくろ!
 一体何着買えば気が済むのだ、疑問を抱くほど袋の数。勿論、この服は自分のではない。“彼女”というべき悪魔の服、プラス最近、店によく遊びに来る女子高生の服が少々。
 
 只今“何でも屋”は本日の仕事を休んでデパートの一角にある服店に来ている。
 風花とあかりは店へ、菜月はすぐ側に設置されているベンチに腰掛けていた。

 前々から風花とあかりが服を買いに行くと約束を取り付けていたことを知っているため、そのことに関しちゃ何も文句は無い。
 今日は日曜という休日で、絶好の買い物日和。自由に買い物を楽しんできて欲しい。


 しかし自分が不満に思っているのは、何故、その買い物の“荷物持ち”に自分が選ばれなければいけないのか! だ。
 

 当然の如く菜月は、女性だけで水入らず、二人っきりで買い物をすると思っていたのだ。が、風花は少年にこう言ってきた。

「あんたは荷物持ちだからね」

 力が無いと分かっていながらの申し出なのか何なのか。
 拒否権など無く(しても殴られるだけ)、泣く泣く菜月は荷物持ちとして女性達の買い物について来た。
 本当は留守番をしている間、読書にでも勤しもうと思ったのに。
 

 一応、読書用の本は持ってきたのだが気持ち的に乗らない。

 隣から漂ってくる重々しいオーラがまた、気乗りさせてくれない。

 
 横目でオーラの元を辿れば、財布の中身を確認している可哀想な吸血鬼の姿。

 服の代金は総て彼が支払っているのだ。

 というのも、先日、吸血鬼は悪魔の怒りを買ってしまった。簡単に言えば、キスしようとした自分達の邪魔をしてしまったのだ。
 自分は直後、気を失ってしまったがネイリーは相当風花に扱かれたようで今も顔に痣がクッキリと。

 ションボリと肩を落としている彼の姿を見ていると、例えネイリーが吸血鬼であろうと同情は湧いてくる。

 「大丈夫ですか?」声を掛ければ、フッと吸血鬼は肩を竦めて笑ってみせる。
 

「女性の我が儘を聞いてやるのが男というものだよ、菜月。少々懐は痛いが、まあ不足することは無いだろう。いざという時は貸してくれるだろう、親友?」

「あ…あははは、勿論です」
 

 いつ、ネイリーさんと親友になりましたっけ。俺。

 苦笑いを浮かべ、菜月は視線を戻す。目に映るのは楽しげに買い物を楽しんでいる悪魔と女子高生。
 流行のスカートを手に取り、和気藹々と会話を弾ませているようだ。何を会話しているのかは分からないが、悪魔は無邪気に笑みを浮かべている。

 あんな顔を作る風花、久しく見た気がする。


 やはり自分と二人だけの世界では駄目なのだ。


 彼女は、もっともっと広い世界を見なければ。仕事ではない、人との繋がりが必要なのだ。彼女には自分以外の繋がりが。
 それを手にしたらきっともう彼女は大丈夫、たとえ自分がいなくとも、きっと、

 
「フロイライン達に見惚れているのかい? 菜月」

「へ、え、あ、…まあ」
 

 突然声を掛けられ、菜月はしどろもどろ愛想笑いと言葉を返す。

 様子に気付いているのかいないのか、ネイリーは「女性は美しいからな」と微笑してくる。「僕も美しいが!」付け加えの台詞が残念だと、菜月は思って仕方が無かった。

 「それで」ネイリーは真顔に戻し、自分を真っ直ぐ見つめてくる。
 

「君はどうしてそんな顔をしているんだい。何か悩みでもあるのかい?」

「え? いいえ。悩みなんてありませんよ。あるとすれば、荷物持ちという役を任されたことですかね。俺、力がありませんから」
 




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