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03-15


  
 飛び込むように屋敷に入り込んだ菜月は暫くゾンビ達に追い駆けられていたが、どうにか撒くことに成功し階段の下の隅に座り込んでいた。

 はっ、はっ、と犬のように呼吸を繰り返しながら気持ちを落ち着かせる。
 額に滲んだ汗を手の甲で拭い、握り締めていた懐中電灯を一旦手放す。

「ゾンビなんて聞いてないよ」

 大きく息を吐き、直ぐ傍にいるコウモリに目を向けた。
 コウモリ越しから自分の様子を見守ってくれているであろう三人は、こうやって今も呼吸を整えている姿も見ている筈だ。


 休んでばかりだと向こうが焦れるだろう。
 

 菜月は重たい腰を上げた。ガクガクと膝が笑っている、全力疾走し過ぎた。
 どうにか足に鞭打って歩き始めた菜月は、懐中電灯をあちらこちらに向ける。石造りの廊下にコツコツと足音が鳴り響く。

 バサ―ッ、羽音が聞こえ菜月は硬直した。ぎこちなく振り返れば、そこには真っ赤なコウモリ。

「なんだネイリーさんのコウモリか」

 ホッと息をつき、菜月は歩みを再開する。

 バサッ―、羽音が聞こえ菜月はまた硬直。ぎこちなく振り返れば、やはりそこには真っ赤なコウモリ。

「あ、ネイリーさんのコウモリか」

 ふーっと息をつき、菜月は足を一歩前に出そうとした。が、また羽音が聞こえ硬直。振り返ってはなんだと息をつく。

 これの繰り返しである。
 

 様子を見守っていた三人は焦れていた。腕組みをしイライラと地団太を踏むネイリーは、

「フウム、先程からちっとも進んでいない。このようなことをあまり言いたくないが、彼はやる気があるのかね?!」
 
 と文句。言いたくもなる、5分ほど経ってもこの動作の繰り返しなのだから!
 「まあ菜月は恐がりだから」風花は遠目を作り、「ビビり過ぎでしょう」あかりは呆れかえっていた。

 いい加減進んで欲しい。

 ドキドキ感やハラハラ感が何処かへ消えてしまったではないか。
  
 
 そんな三人の反応など露一つ知らない菜月は、コウモリの羽音にビビリながら一室の前に立つ。
 漸く部屋を探索し始めたのだ。菜月はひとつひとつ部屋に入ると何か手掛かりはないかと机の引き出しを開けたり、クローゼットを開けたり、ベッドの下を探したり。

 しかし何も見つからない。

 「普通、家宝なら金庫に保管するよね」思考を巡らせながら菜月は部屋を出た。早足で廊下を歩くのは恐いからではなく、何か手掛かりはないかと熱中しているからだ。

 コウモリの羽音が聞こえても反応しない菜月は、うんうんと頷いては独り言を呟いている。

 せめて情報があればな、ポツリと菜月は言葉を漏らしまた部屋に入る。
 その部屋は個室とは違い、とても大きく広く家具等が一切ない殺風景な部屋。


 此処はダンスホールのようだった。
 


「わぁー、お屋敷にダンスホールなんて。お金持ちは違うな……あ、れ?」

 

 ダンスホール全体に音楽が流れてきた。優雅なメロディに心が落ち着き和む、筈もない。
 無人のホールに音楽が流れるなど不可解なこと極まりないのだから!

 ガタガタと震え始める菜月の背はびっしょり濡れていた。目を凝らしてよく見ると、薄暗いホールの真ん中で誰かが踊っている。動きの影からして踊り手はひとり。
 まるでパートナーがいるかのように踊るその人物は、菜月に気付いたのか足を止めてこちらを見てきた。

 月明かりの差し込むダンスホール、青白い光によってホールは照らし出される。踊っていた人物も照らし出され、菜月は絶句した。
 
 可愛らしい桃色の大きなリボンを揺らしながら、此方に歩み寄って来たのは人間の骨組みとでもいうべきもの。
 理科室で一度はお目に掛かるであろうそれ。


 カクカクカク、と歯を合わせて菜月の前に経ったのはスラッと身長の高い、ガイコツ。


「お、お邪魔…しま…しま…」


 声を震わせ、菜月は後退りする。来た道を戻ろうと踵返した瞬間、ガイコツが背後に回って開いていた扉を閉めてしまった。

 カクカク、歯を鳴らせてくるガイコツが両手を広げてきた。反射的に菜月は駆け出す。
 

「ガイコツいやだあぁあああ!」

「カクカクカク!」
 

 ダンスホールを走り回る少年とガイコツ、それを追うコウモリ。ホールに月明かりが満ち、優雅な音楽と悲鳴がホール全体を包み込む。

 まさに異様な光景だった。




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