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03-07


 
「あんたがあたしに一目惚れしてきたのはよーく分かったけど、あたしはお付き合いする気ないし! だってもう付き合ってるから!」

「大丈夫だ、フロイライン。彼氏には僕から上手く言っておくから。安心して僕と付き合うがいいさ。僕はカッコイイしな!」


「じゃ、じゃなくてあたしには好きな奴が!」

「言わずとも分かってるさ。君は僕が好きなのだろ? 僕はカッコイイしな!」


「誰もそんなこと言ってないだろ! あんた、悪魔と付き合ってタダで済むと思ってるわけ?!」

「悪魔と吸血鬼。お似合いのカップルだと思うぞ? 僕はカッコイイしな!」
 


 ただでは折れない男、ネイリー・クリユンフ。
 先程から言葉の後ろに『僕はカッコイイしな!』と付いているが、ツッコむべきなのだろうか。

 取り敢えず、物事をポジティブに受け止め答弁しているところは尊敬するべきだろう。

 むむっ…風花は握り拳を作り、菜月をビシッと指差した。「あたし、そいつのハニーだし!」

 キョトンとした目を作るネイリーは菜月に視線を送り、菜月は恐る恐るネイリーに視線を送った。
 「本当かね?」疑心を含んだ問い掛けに、菜月はコクコクと何度も頷く。少年の腰は逃げモードになっている。

 するとネイリーは一息つき、ポンと菜月の肩をに手を置いた。
 
「彼女のこと大事にすると誓う。安心したまえ」

「はい…いっ? そ、それってっ……、あ、あぁあのですね! 俺っ、おれっ!」


「何かね?」

 
 ズイッと顔を覗き込まれ菜月は悲鳴にならない悲鳴を上げて、凄まじい勢いで後ろへ下がった。

 ジワリジワリと涙目になっている菜月が救いを求めるように、こちらに視線を向けてきた。「言ってやって下さい!」あかりは声援を送り、「一発かましたれ!」風花は無茶振りを口にする。

 二人に押され押され後に引けなくなった菜月は(引いたら引いたで後が恐い)、ゴクリと生唾を飲み、やけくそで声音を張った。 

「俺、風花は譲れないんです! 無理です! あ、いえ、言葉が過ぎました。えっと、譲れません…譲りたくありません……ので、身を引いて下さったら嬉しい…と、言いますか…」

 語頭は勢いが良かったというのに最後はまったく声が聞き取れない、小さな小さなものへとなってしまった。
 吸血鬼相手に反論できただけでも良し、と思うべきなのだろうがビクついている少年の姿を見ていると残念な気持ちになって仕方がない。

 「僕は本気だ」ネイリーは真っ直ぐ菜月を見つめ、持ち前の紫の瞳で少年を捉えた。曇りのない瞳に菜月は怯んでしまう。「あー」とか「うー」とか声を上げて必死に恐怖心を拭おうとしている。

 少年にとってネイリー・クリユンフという男が恐いのではなく、吸血鬼という存在が恐くて仕方がないのだ。

 菜月の反応にネイリーは軽く首を横に振って「このままじゃ引き下がれない」とキッパリ言い切った。

 
「君の本気を僕に見せておくれ。でなければ、僕の中で納得できないよ。世間体から言わせてもらえば、どうあっても君達は相応しくない。君は最弱種族である人間、彼女は悪魔なのだから。
しかし僕は種族のことでとやかく言うつもりはない。僕が言いたいのは君の中の男な部分だ。同じ男として僕は君が彼女に相応しいか見極めたい」
 

 風花に対して本気なのだ、ネイリーは。誰が見ても彼の気持ちは手に取るように分かる。

 第三者である自分でも分かるし、告白された本人でさえ、ほんの少しだけ困惑の色を表情を見せているのだ。ネイリーは紛れもなく本気のようだ。
 恐怖と闘っていた菜月も気持ちに応えようと思ったのだろう。三歩ほど前に出た。


「三歩は多かったかな…」


 菜月は二歩引き下がった。
 三歩歩いて二歩下がる、結果的に菜月は一歩前に出たことになる。

 これでも少年にとっては相当勇気を振り絞った方だろう。

 更に少年はグッと勇気を振り絞ってネイリーと視線を合わせた。
 



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あきゅろす。
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