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02-13


* *
 
 
同じくデパート地下一階。
あかりは“何でも屋”と共に食品売り場に足を運んでいた。

理由は菜月が夕飯の食材を買いたいと申し出たため。

買い物カートを押している菜月は「あんなところで喧嘩するんだから」と、独り言に近い文句を垂れていた。ぐうの音もない。

しかし、それもこれもあれもどれも悪魔が悪いのだ。

チラッと悪魔を一瞥…、って、風花の姿がない。

「もー…」菜月は重い溜息をついて足を止めた。
 

「目を放すと、すぐいなくなるんだから。多分お菓子売り場に行ったんだと思うんだけど。風花、お菓子見るの大好きだから」

「子供ですか、風花さん」

「あはははっ…中身は凄く子供だよ。それがいいところでもあるんだろうけどさ」


でも困ったこともたくさんあるんだよね。肩を竦めて日用品売り場に入る菜月の後を追う。
向かう先は勿論、お菓子売り場。

「菜月くん。風花さんに手を焼きません?」

「ん? ンー、まあ、ああいう性格だしね。あ、これ安い。お得だ」
 
立ち止まり、菜月はトマトの缶詰を手に取る。
主婦化している少年に微苦笑しながら、どこが好きなのか? と改めて質問をぶつける。

やや困り気味に笑う菜月は、「全部かな」と曖昧に答えた。
 

「風花は不器用さんだし、結構我が儘だし、気が強いし。手を焼くことがいっぱいだけど…、一緒にいたい人なんだ」

「寛容ありますね。私が男だったら無理ですよ、風花さんみたいなタイプ」

「好きになるとね、不思議と我が儘も可愛く思えるんだよ」


ノロケる少年は刹那、哀しそうに笑みを浮かべ、あかりを捉えた。
 
 
「できることなら、このままずっと風花といたいんだ。できることなら…さ」
 
 
それは、まるで訪れる別れを察しているかのよう。

「好きという気持ちがあれば、叶う願いなんじゃないですか?」思わず励ましを送る。少年は笑みを深めた。


「好きな気持ちだけじゃ、どうにもならないこと…あるんだ。いつかのために風花の世界…少しでも拡げてあげられたら。いつかのために俺がいなくても寂しくない世界を与えてあげられたら」


「菜月くん」


「……なーんてね。あかりさんの言うとおり、好きな気持ちでどうにかなるよ。愛想尽かされなければの話だけどさ」
 

笑声を漏らす菜月の背を、あかりはひたすら見つめ続けた。
今の台詞、本音ではないだろうか?

でなければ、あんな哀しい表情(かお)作らない筈。彼は何を想って、悪魔と傍にいるのだろうか?



少年の言うとおり、風花はお菓子売り場にいた。

小さなお子様と一緒になってお菓子のパッケージを眺めている姿は、まさに子供だと思う。

「あんね、チョコすきなの」「ねえちゃんもチョコ好きだねぇ」見知らぬ子供と会話しているところがまたなんとも。

子供はお菓子を一つ選んで母親の元へ。風花もお菓子を五つ選んで此方にやって来た。


「ダーリンダーリン! これが食べたい!」


呼び名に菜月は「え?」と顔を赤くした。
構わず風花はカートにお菓子を入れてしまう。

 
「ちょッ、風花。お菓子は三つまで。じゃなくて、なんでダーリンっ?!」

「だって小娘が恋人に見えないって言うじゃん? んじゃ、そう見せようってあたし、これからあんたのことダーリンって呼ぶことにしたんだ。あたしのことは」

「呼びません。お菓子は三つまでです。二つ戻してきなさい」
 
「えー?! なんでさなんでさなんでさ! 全部食べたい! ハニーって呼んでよ!」


駄々を捏ね始める風花を無視し、菜月はお菓子を戻し始める。
「ケチィー!」大声を出す風花はぶっすーと脹れていた。

どんだけ子供なんだとあかりは呆れたが、風花の態度を見ていると何だか可笑しさが込み上げてくる。

あれが悪魔なんて信じられるだろうか。

自分達と同じようにお菓子を食べて、服に興味を持って、恋人に見られたいと呼び名を意識してみたりなんかして。

自分達人間と変わらないではないか。
 
しょうがないとあかりは菜月の戻したお菓子を手にする。

 
「これ、明日お店に持って行きますからみんなで食べましょう?」


風花にそう言うと、「いいの?」と意外な反応を見せてくる。てっきり子ども扱いするなと言われると思ったが。

「ゼリーのお礼ですよ」あかりは笑顔で言った。


「これくらいしないと罰あたりそうですし、風花さん、食べたいんでしょ?」

「そりゃそうだけどさぁ。あんた変わってるねぇ」


正体を知っておきながら自分のことを恐れない、それが彼女にとってとても不思議なのだろう。素で驚いている。

あかりは笑声を漏らした。
こんな子供っぽい人を恐れろと言う方が無理な話だ。

少し前まで彼女を恐れてはいたけれど素を知ってしまったら、恐れるどころか笑ってしまう。

「今度、洋服選んでもらいますしね」
 
面食らった顔を作る風花だったが、「んじゃ甘える」満面の笑顔で告げてきた。

それは意地の悪いものでも、作ったものでもなく、素の笑顔だった。



「ほんとあかりさんは変わってるや」



傍で見ていた菜月はただただ微笑を浮かべ、二人のやり取りをそっと見つめていた。
どこか哀愁を漂わせながら。
 


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あきゅろす。
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