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02-12


「ちょッ、めっちゃラブラブだったじゃんか! あたし達!」

「全然」


「ラブラブの雰囲気醸しだしてただろ!」

「まったく」


「どう見たって恋人だろ!」

「皆無です」


「あたしと菜月、仕事でもプライベートでも仲良かったじゃんかー!」

「ほんとに。まるで姉弟のようでしたよ。残念なことに」

 
キッパリスッパリバッサリ言えば、風花は大ショックだとばかりに二、三歩、後退り。

フラッと長椅子の肘掛けに寄り掛かってしまう。

どーんと空気を重くしている彼女の落ち込み方は半端ない。

「恋人に見えない? 見えない? みえない?」ブツブツと呟いている。

まさかそこまで落ち込むとは、ハッキリ言い過ぎたかもしれない。やや反省の念を抱きながら風花に声を掛ける。


すると彼女は体を微動させ不気味に笑い始めた。言葉のとおり、とても不気味に。

 
何の声だと他の買い物客達が視線を飛ばしてくる中、風花は気にも留めず顔を上げて口角をつり上げた。

口端が引きつっている様な気もした。
 

「恋人に見えない。まさかの侮辱ッ…、いやこれはっ、妬み。妬みなんだろ。小娘! 妬んでるんだろ! 彼氏がいないからって!」
 

ビシッと指差してくる悪魔はフンと鼻を鳴らした。ポカンとしていたあかりだったが、ジワジワと理解力が追いつき風花の言葉に素っ頓狂な声を上げる。


「は…はああ?! 誰が妬んでるんですか! そりゃ、そりゃ彼氏いませんけど」

「フフーン。あたし分かってるし! あたし達の仲を見て、『恋人羨ましいっ…ムカツキます!』とか思って僻んでるんだろ! そりゃ菜月とあたし、超ラブラブだし? 僻みたくなるのも分かるけど? あんたには彼氏いないしねぇ。大事なことだから二回言うけど彼氏いないしねぇ」


ヘッ、言葉を吐き捨てる悪魔に反省どころか怒りが込み上げて仕方がない。

彼氏がいないいないって、人が気にしていることをっ…。
 
両者が睨み合っている中、蚊帳の外に放り出された菜月は必死に二人の仲裁に入ろうと努力していた。

「二人とも、落ち着いて」

しかし少年のちっぽけな言葉など両者の耳に届くわけもなく、青い火花を散らし合っていた。


「私は僻んでません! 人聞きの悪いことを言わないで下さい! どーせ、風花さんが無理やり菜月くんを彼氏にさせたんでしょ」

「なッ?! それこそ人聞きの悪い! それじゃまるであたしが誑かしたみたいじゃないか! あたしと菜月は純粋にお付き合いしてるんだ!」


「風花、あかりさん。此処デパートだから。せめて声を抑え」


「悪魔でしょ! 悪魔の純粋な恋愛は犯罪モノですぅー」

「へぇぇぇ、悪魔が普通の恋愛しちゃダメってか? けれど? 人間のくせに、まだ彼氏作ったことない小娘に言われとうございませんねぇ」


「あのー…風花、あかりさん」


「まッ、また言いましたね! 悪女!」

「あー言ったよ! 小娘!」

 
「この悪魔あくまあくまあくま! ついでに悪女!」

「この小娘こむすめこむすめこむすめ! おまけで生意気娘!」

 
デパートの地下街で大声を出す二人を余所に、「申し訳ございません、お騒がせしております。どうぞお気になさらず買い物を続けて下さい」菜月は周囲の買い物客にペコペコと何度も頭を下げていた。

それほど三人は目立ちに目立っていたのだった。



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