02-10 問いに軽く目を伏せ、菜月は顔を綻ばせる。暫し間を置いて彼は答えた。「うん」 悪魔は自分の世界を変えてくれた。彼女は大切な存在なのだと少年は語る。その表情は限りなく優しく、限りなく眩しそうだった。 ほんのりと頬を紅潮させる彼の心情を察してしまったあかりは、思わず微苦笑してしまう。 なんだ、相思相愛ではないか。“何でも屋”店員は互いに片恋を抱き、互いに想いあってる。これを相思相愛といわず、なんという。 「だったら告白してみても、いいんじゃないですか?」 助言だとばかりにあかりが提案する。 「へ?」菜月は間の抜けた声を出し首から上が真っ赤に染まる。「いや、その、ね」しどろもどろ無意味な言葉を並べる少年は俯いてしまった。 「あ、ああああかりさん。告白もなにもね、俺達、付き合ってるんだ」 「あれ? お付き合いしてるんですか」 「う、うん…一応」 「………」 「………」 「………」 「………」 「え゛? 今なんと?」 「だから、つ、つつつつ付き合ってるんだ。俺と風花」 付き合うとは男女が想い合い、恋仲になることを指す。 今、菜月は風花と付き合っていると言った。 つまり、つまりだ二人は恋人同士ということになる。傍から見れば、風花の片思いというか、まったく恋人に見えなかったというか、冗談? いやだって恋人ってもうちょっとこう、もうちょっとこう、恋人独特の甘さというかそういうものが醸し出されているものなのでは。 唖然とするあかりの隣で菜月は恥ずかしそうに縮み込んでいる。 頭から湯気が出そうなほど顔を赤らめている彼は、チラチラッとあかりの反応を窺っていた。あかりはただただ固まるしかない。 妙な空気が二人の間に流れた。 「あー! ちょっとあんた達、何良い雰囲気作ってるわけ?!」 タイミングが良いのか悪いのか、手洗いから戻って来た風花がこちらを指差して叫んでくる。 「ち、違うよ風花!」 菜月は必死に首を横に振り、あかりはまだ固まっていた。 射抜くような視線を飛ばす風花は菜月の顔色と、あかりの態度に、ますます眉間に皺を寄せる。 ドスンッ、ドスンッ、足音を立てながら菜月に歩み寄り、容赦なく胸倉を掴んだ。 「菜月くーん、あんた顔が赤いんだけど。あたしというものがありながら、あんたこの小娘に口説かれてたわけ?」 「ちッ、違います違います違います! 俺は口説かれてませんッ、ついでに口説いてもいません!」 「あんたは天然タラシだからねぇッ、あんたがそう思ってなくても口説いてる時は口説いてるんだよッ。この浮気者ー!」 「どーしてそっちにいつもこじ付けるの?!」 嗚呼、本当に二人、付き合ってるんだ。今の会話が証明している。 遠目を作るあかりに対し、二人はまだ、いや正確に言えば風花はまだ騒いでいた。 「あんたはいつもそうさ! あたしが見張っとかないと悪い女にすぐ付き纏われる! そのお人好しの性格がアダになってるんだよ!」 「だ、だから違うんだって! 俺はあかりさんから、その、そのー」 「その? 何? 十秒以内に言わないと」 「そのー…えーっと」 「10すっ飛ばして4、3、2、」 「言います言います! そのっ、風花のこと好きなのかって聞かれたから、それに答えただけ! 顔が赤いのは自然現象!」 ゼェゼェ呼吸を乱す菜月に対し、風花はコロッと機嫌を直して「ならいいや」と掴んでいた胸倉を手放した。現金な性格だと思わずにはいられない。 しかしあかりはそれ以上に叫びたいことがあった。 長椅子から飛び下り、交互に二人を指差す。 [*前へ][次へ#] [戻る] |