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曖昧まいな僕等の距離


  
 * *

 ―――風花が寂しがり屋なのは、三年の付き合いである菜月がよく知っている。  
 
 強気の勝気で口の悪い悪魔だけれど、誰より独りを恐れ好意を持つ人間には構ってちゃん。誰かを見ていればすぐに脹れ、嫉妬心を剥き出しにする。
 自分が好き故の行動で悪気はないのだと菜月はよく知っていた。
 知っていたのだが、最近はその度合いが強くなっているような気がする。

 仕事の関係で1階でノートパソコンを弄くっていると傍にいた風花が「ねえねえ」とすぐ声を掛け、私に構えモードに入る。
 風花にはできない頭を使うような仕事をこなしている時、大抵彼女はおとなしく寝室でテレビを観ているのだが、最近はしょっちゅう声を掛けてくる。注意しても聞く耳を持ってくれないため、仕方なく寝室で仕事をこなす。
 それだけでは不満そうなため風花と共に片方のベッドの上を陣取り、風花はテレビを、自分は仕事をこなす。

 それで風花はようやく満足するのだ。 

 買い物を行った時もいつも以上に過敏に反応しては、浮気だの女性に見惚れていただのうんたらこうたら、延々いちゃもんをつけられる。
 強く反論すればヘソを半日以上曲げてしまうため、菜月も下手に反論はできない(ヘソを曲げた風花の機嫌直しは骨を折るのだ)。
  

 極め付けは就寝時だ。
 最近、彼女は毎日のように自分のベッドに潜り込んでくる。「恋人なんだしイチャイチャしたい!」という理由で。枕だけ持って自分の布団に堂々入ってくるもんだから困ったもの。
 べつに嫌というわけではないのだが、風花の寝相はまさに悪魔。これぞ悪魔! とでもいうような凄まじい寝相。

 目が覚める瞬間は大抵、風花にベッドから蹴り飛ばされる時。
 おかげで体のあちらこちらが痛い。蹴り飛ばされる度に、床に体を打ち付けるのだ。痛くないわけないではないか!

 さすがに身が持たない。
 当初は別々に寝ようと心に決め、風花に直訴しようと思っていたのだが、布団に潜り込んでくる彼女はそれはそれは安堵の笑みを浮かべてくる。
 心の底から安堵する、迷子の子供が母親を見つけたような、そんな顔。
 
 別々に寝ようなど、言える筈、無かった。

(……さみしいのかな)

 人肌恋しいとばかりに擦り寄ってくる風花の頭を撫でれば幸せそうに表情を崩し、目尻を和らげてくる。ごろごろと甘える姿は猫のようだ。

 そういえば最近。
 寝る前に必ず、風花は言ってくる言葉がある。
 それはまるで彼女にとって呪文のような言葉。それを言うと風花は安心して眠るのだ。毎晩彼女は言ってくる。「菜月のこと、あたしが1番知ってるから。絶対離れないから」と。

 だから安心しろよ、なんて、はにかむ悪魔に菜月は頷くしか術はなかった。
 
 当然、連日連夜続く悪魔の言動に、菜月は日に日に抱く疑問を強めた。
 そして自分なりに導き出した一つの答え。風花は“何か”に不安になっている。怯えている、のかもしれない。負の感情を振り切るように自分に甘えているのではないか。

 風花の性格上、1番しっくりする答えだった。

 では“何か”の原因を作っているのは?

 十中八九、自分だろう。
 自惚れではなく真面目な話、風花を極端に不安に陥れる輩は自分なのだ。




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あきゅろす。
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