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06-08


  
「ごめん、菜月! 言い過ぎたっ! だから泣くな! あたしの顔で泣くな! …ああ、ごめんって!」

「俺、成長期だもん。チビじゃないもん。チキンなのは仕方ないんだもん。人殴るの恐いもん。痛いの嫌いだもん」

「ま…、マジで泣くなって! 頼むから泣くなー! あたしの泣き顔を見ているあたしの気持ち、すっげぇ複雑だから!」

「泣いてないもん。イジけてるだけだもん。男は簡単に泣くなって、じいさまに言われたからぁ…俺は泣いてないもんっ!」

「あたしの姿で一々語尾に『もん』付けるのやめてー! あたしの姿で『もん!』なんてきーもーいー!」
  
 吠える少年にあんまりな言い草だと悪魔は頬を脹らませ、プイっとそっぽ向き、近くに設置してあるテーブルの下へともぐってしまう。
 太いテーブルの脚と向かい合い、身を小さくして体操座り。床に“の”の字を書き始めた。

 嗚呼、完全なイジケモード発動だ。


「ほ、ほんとごめんって」


 努めて優しく声を掛けるが、悪魔はどーんと暗い声で「俺、チビじゃないもん。成長期だもん」と呪いのようにブツブツブツ…。

 もしかして八つ当たりされたことよりも、身長のことをグサグサ言われたことの方がショックだったのかもしれない。
 身長は彼にとってタブーのようだ。

「なつきー、ごめんって! あたしの姿で世にも不気味なことしないでよぉー」

 ほら、そんなところにいてもしょうがないだろ。
 笑顔を必死に作る自分を一瞥した悪魔は「風花だって俺の姿で女口調だもん」と反論。
 
「デキないもんはデキないもん。俺、男の子。風花にはなれないもん」

 頼むからその、語尾に『もん』を付けるのはやめよう。
 自分が言っていると思うだけで鳥肌立つから!

 叫びたいのをググッ…と堪え、何度も何度も出てくるよう声を掛けるのだが、悪魔は出てくる気配がない。

 仕舞いには「ほっといてよ」と突き放されてしまった。こりゃ暫くは機嫌が直りそうにない。

 ガックリ項垂れる少年に、あかりは言い過ぎですよと苦笑いした。
 誰だってあんなに言われたらイジケてしまう、もしくは激怒してしまうものだ。


 だってさぁ…、脹れる少年は自分が悪いんじゃないと断言。

「これもそれもあの小鬼のせいだ!」

 元凶に癇癪を起こし、捕まえてくれたらどうしてくれようとドス黒いオーラを放出している。

 奴等には必ず地獄を見せるなんて表情を浮かべている少年、嗚呼、普段のイメージがた落ちだ。

 いつも目にしているホットケーキを作る時のあの柔らかな表情、お化けに恐がり絶叫を浮かべていたあの半べそ、動植物に目を輝かせているあの表情とはまったく別の顔。新たな表情に少し引いてしまう。

 もし、菜月の性格が真っ黒だったら、きっと、ああいう真っ黒で素敵に無敵な表情を作っていたに違いない。

 
 それはそれでおぞましいものを感じるのだが、もっとおぞましいのは……。

 
 あかりはテーブルの下で体操座りを作り“の”の字を書いている風花を見る。

 八つ当たりに近い説教をうけ(いやあれはただの八つ当たり)、イジけてしまっている風花。

 普段の彼女ならば、意地の悪い笑みを浮かべて相手を挑発・悪口マシンガン・そして人の痛いところばかりを突く、まさに悪魔で悪女でガキな彼女が、一変してピュア笑顔。悪意なく、優しい笑顔で自分に紅茶提供なんてされたら……。

 嗚呼、とてもとても心臓が、心臓が痛くなる。悪い意味で。
 

 早く元に戻ってくれないだろうか。傍観側の自分に被害が及ぶ。精神的面で。

  
「あのー、なつ…じゃない風花さん。お怒りのところ申し訳ないのですが」

「何?!」

「小鬼が影を入れ替わってしまったのは分かりました。じゃあ、どうすれば元に戻れるんでしょうか?」
 
 
「そりゃーあんた。影鬼を捕まえるしか方法はないよ! けど、今のあたしじゃ影鬼を捕まえることは勿論、影鬼を探し出すことさえ無理だ。今のあたしは菜月で人間だからねぇ…。
あたしになった菜月なら、もしかしたら影鬼を見つけられるかもしれないけど、魔力を感じるって結構難しいからねぇ。ただでさえ普段のあたし、人の魔力を察知するの苦手だってのに」
 
 



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あきゅろす。
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