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05-15


 
 ネイリーは怪我したあかりをおぶり、停まっているエスカレータの段を二段越しに下りていた。

 「大丈夫かね?」あかりの足首に目を落とし、痛みは無いかと尋ねた。
 彼女の足には応急処置程度にハンカチが巻かれていたが、血が滲んでいる。

 しかしあかりは大丈夫だと毅然と笑う。多少出血はあるものの、痛みは擦り剥いた程度。我慢できないものではない。
 

「ネイリーさんこそ大丈夫ですか? お怪我は」

「あかりくんほどでもないさ。あかりくんのような柔らかな足は傷付きやすいからな。早くちゃんとした手当てをしてあげたいのだがっ、…あれは」
 

 金属音のかち合う音、衝撃で起こる風、肌刺す殺気。一階フロアは戦の庭と化していた。

 風花の繰り出す風の攻撃をいばらは軽やかに避け、お返しだとばかりにバルディッシュを宙を真っ二つに切り裂き、斬撃を飛ばす。
 床を天井を柱を抉る斬撃を大鎌で弾き飛ばし、風花は地を蹴って重力に任せ勢いよくいばらに向かって踵を落とした。いばらが飛び去った場所が大きく衝動でへこみ、床の破片がパラパラと飛び散る。

 「フロイライン…どれだけの力があるんだい」ネイリーは顔を引き攣らせた。

 いつも彼女のパンチを食らっている自分って…、吸血鬼の独り言にあかりはこれから馬鹿なことをしないよう忠告した。
 そのうち風花の馬鹿力で天に召されてしまうだろうから。

 あかりは床の上で眠っている少年の姿を見つけた。ネイリーの肩を叩き、少年がいたと指差して教える。
 
 彼の元に駆け寄り、吸血鬼の背からおりたあかりは体を揺すって菜月に呼びかけた。応答はない。

「菜月くんっ…ネイリーさん。菜月くんが」

「これはまずいな」

 片膝立て、ネイリーは菜月の首筋に手を当てる。「脈も精気も弱い」彼は顔を顰めた。
 危ない状況なのか、声を震わせるあかりにネイリーは正直に答えた。
 
「肉体と魂は一心同体。魂なくして生はなく、肉体なくして生はない。つまり肉体はあれど空っぽなのだよ、今の菜月は」

「じゃ…じゃあ。もしかして食べられちゃったんですか? 菜月くんの魂」
 
「悪魔に魂を食われた生き物は、その悪魔の魔力で生かされる。菜月にはまだ悪魔の魔力を感じられない。食べられてはないようだ」
 
 良かった、あかりは胸を撫で下ろす。
 けれど菜月の魂は何処に?

 「かーえしてよ!」「フッザけんな!」罵声は魂の在り処を教えていた。彼の魂は風花が持っているのだ。

 ぶすーっと脹れているいばらは、バルディッシュを肩に乗せ風花を見据える。
 どれだけ欲していたと思うのだ、文句を垂れる彼女に風花はフザケんなと忌々しく舌打ちする。
 
 しかしいばらは平然と風花の睨みを受け流し、興味も無さそうに自分の爪を眺めながら聞いた。

「魂を取って喰らう。それのどーこが悪いのー? 悪魔の本能の一つじゃーん」

「悪いなんて言ってないだろっ。ただあたしの彼氏の魂を喰らうことにムカついてるんだよ! あたしはそういう魂を喰う行為、好きじゃないしねぇ」

「へえー、偽善ぶるんだ?」

「あたしの好き嫌いに茶々入れられる筋合いは無いよ」
 
 だったらこっちだって止められる筋合いも文句を言われる筋合いも無い。いばらはむすくれながら返答した。

 「だっから! 人の彼氏に手を出すなっつってるんだ!」「そーんなのこっちの勝手でしょー?」言い合いは埒の明く気配が無い。

 ヤダヤダ、鬱陶しいとばかりにいばらはスーッと手を翳し、風花の周囲に魔法陣を召喚した。発動する前に大鎌で魔法陣を切り裂き、特大のかまいたちを漆黒の悪魔にお見舞いする。
 バルディッシュを振ってかまいたちの軌道を変えると、いばらはフンと鼻を鳴らした。
 

「あーんたに菜月は相応しくない」


 玄関口にかまいたちがぶつかり、衝撃で風が起こる。いばらは背で風を受け止め、キュッと目を細めた。




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