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1-6

 
「糸!糸引いてる!」
「そういう食べ物なんだよ」
「あたしもやるー!えーっと、醤油ってヤツ入れて……黄色いヤツ入れたがいい?」
「取り敢えず、醤油と葱だけがイイと思うよ」
「葱っつったら……この緑の輪になってるヤツだね?それを入れて、掻き混ぜる」

 勢いよく納豆をスプーンで掻き混ぜる風花。
 
 程よく掻き混ぜればいいのだが、彼女の掻き混ぜ方の豪快といったら……力を込めて掻き混ぜているらしく、ややスプーンが曲がっている。

 言葉を失っている菜月を余所に、風花が満足してやや曲がったスプーンで納豆を口に運んでいた。
 やな臭いで少し眉を顰めていたが、お味はお気に召したようだ。


 美味しいと菜月に笑いかけた。


 それは良かった。
 菜月が微笑んでいると、風花が糸引くスプーンを一生懸命切ろうとしている。お
 皿から、スプーンを遠ざけ、唸りながらブンブンとスプーンを振り回す。
 
「切れないし!菜月、切れないよ!」
「自然と切れるって。だから、そんなに振り回さなくても」
「鬱陶しいんだって。このっ、このっ!……ありゃ?服の上に、納豆が落ちた」
「うわわわわっ!何してるの風花!しかも手で取るの?!」
「だってー?取らなきゃ、服が臭くなるだろ?」


 だからって、手で取りますか?!


 ティッシュを渡し、それで取るように言えば風花が一生懸命ティッシュで納豆を取り始める。
 「勿体無い」ブツブツ文句を言う風花の手は、糸が沢山引いている上に、ティッシュがくっ付いている。
 何処からツッコもうかと菜月が思っていると、風花が肩を叩いてきた。

 「何をしているの?」菜月が訊ねれば、風花がケラケラ笑う。
 
 
「菜月の肩に糸がくっ付いたー」
「わー!なんてことするの!……見事に、糸引いてるしさ」
「手がネバネバなんだって。折角だし?」
「折角だし?じゃないよ!そこの流し台で、手を洗って」
「見てみて!手の平くっ付けると、スッゲー事になってる!」
「遊ばないの!風花!」


 どうも、納豆は風花にとって面白い玩具として映っているようだ。


 此処1週間、洋食だったからこんな問題は起きなかったのに、和食になった途端これ。
 菜月の頭の中のメモに、風花に与えてはいけない食べ物その1として納豆が書き込まれた。


 絶対、彼女には納豆を与えてはならない。


 しかしまあ、彼女のお口に合ったのだから、これからも彼女は納豆を食べ続けるだろう。
 では、どうやって彼女が納豆で遊ばないようにしてくれるのか、考えなければいけない。
 手の平をくっ付けては、少しずつ離して、手の平の間に引いている糸を見て楽しんでいる銀色の悪魔に菜月は心の中で溜息をついた。

 
 当分、納豆は食卓に並べてられない……。
 
 
 この時点で風花が折角着替えたというのに、また新しいローブに着替える羽目になったということは言うまでもない。



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あきゅろす。
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