1-5
真っ黒なローブに着替えた風花が腰の紐ベルトを締めながら2階から下りてくる。
菜月は朝食の準備をしていた。
せっせと朝食の準備をしている菜月と目が合えば、風花が声を殺して笑ってくる。
まだ、先程の出来事を引き摺っているようだ。
「笑い事じゃないのに」菜月が文句を言いながら、炊飯ジャーの蓋を開ける。
しゃもじで白飯をよそい、カウンターに朝食を並べていく。
目を輝かせ、風花が並べられた朝食の中のひとつを指差し「図鑑で見たことある!」と叫んだ。
風花が指差したのは、納豆。
図鑑に載っているとは納豆も昇進したな、なんて菜月は思った。
「これって手掴みで食うんだろ?ネバネバを楽しむ為に」
「……いやいや。手掴みなんて、そんなことしたら、とんでもないことになるから」
「違うのわけ?ンー、それにしても、変な臭いだな……腐ってるの?」
「初めてお目にかかる人は、そう言うんだよね。無理して食べなくていいよ?」
外国人は納豆が苦手な人が沢山いるし、日本人だって納豆が苦手な人が沢山いる。
菜月にはどうしても風花が納豆を食べれるとは思えなかった。
自分は和食が好きだし、冷蔵庫に買い置きがあったからそれを出しただけで、無理して風花に食べて貰おうとは思わなかった。
しかし勝気な悪魔はプライドがあるのか、食べると言って聞かなかった。
絶対食べられないと思っていつつ、本人が食べたいと言うのだから、食べさせないわけにはいかないだろう。
味噌汁の入ったお椀を置き、風花にスプーンとフォークを渡す。(風花はお箸が使えないのだ)
全ての用意が終わると、菜月は隣に座った。
風花は「お腹減った」と目の前の朝食に舌なめずりをした。
すぐにでも食べようとしたが、思い出したように風花は手を合わせる。
「あー…何だっけ?掛け声があったよな?」
「掛け声じゃなくて、食べる前の挨拶ね。いただきます、だよ」
「それ!いただきます!日本人はそうやって飯を食う仕来りって、本で学んだんだよなー」
人間界の文化を学ぶことが趣味な風花は、そう言って、スプーンで白飯を掬って口に運ぶ。
美味しいと顔を綻ばせる風花は、魔界ではこんな美味しいものなかったんだよなーとご満悦中。
自分が作ったものを喜んで食べてもらうと、なんだか照れ嬉しい。
菜月がそう思いつつ納豆に辛子と醤油と葱、それから卵黄を入れて箸で掻き混ぜる。
風花は「おお!」と歓声を上げた。
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