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四天守護家追放命令

  
 
 こんな光景を目にしたことがある。
 
 
 独りの生き物に対し多数の生き物が白目で陰口を、時には冷やかしを浴びせるというその光景を。疎外されている光景を。
 肩身を狭くしながら非難に堪えている独りの生き物の後姿はとても小さかった。反論さえなく、ただただ堪えていた。


 果たしていつ目にしたのか。

 通り過ぎる際その光景を目にしたような、記憶は曖昧だ。


 光景を目にして多少同情心を抱いたような気がするが、それ以上の感情を抱いた記憶は無い。どうでもいい記憶として記憶の片隅に置いてある。
 それどころか「そんな眼を向けられても仕方がないだろ」と、薄情な感想を後々職場仲間と話していた。

 理性の持つ生き物というものは都合の良い生き物で、自分の身に降りかからない限り薄情な意見を持つものだ。
  
 
 
 手元に送られてきた書類を眺めながら、狐夜拓海は大きく溜息をついた。

 先程から職場から聞こえてくるのは明らかに自分の陰口。
 聞こえないように囁いてくれているのか、それともワザと聞こえるように囁いてくれているのか、意図は分からないが陰口が自分の鼓膜に激突している。

 「聞こえてるっつーの」苦言し頬杖をついて書類を埋め尽くしている文面に目を細める。
 読む気にならないが送られたからには目を通さなければ。

 堅苦しい文字の集合物を瞳に映す。脳で文字の意味を理解しながら、読み進めていると中間地点で目が留まってしまった。
 端然としている表情が脆く崩れ、眉間に皺が残りそうなほど険しい顔を作る。
 ある一文を読み理解した時、拓海は思わず椅子を倒してしまった。
 周囲の職場仲間が驚愕な顔を作ったり怪訝な顔を作っている中、拓海は机を叩いて書類を睨んだ。
 
 
「何だよ、それ!」


 クシャクシャに書類を握り締め、矢の如く拓海は執務室を飛び出した。
 憤りを隠せないまま回廊を進み、兵士達が目を光らせている長の間の前で立ち止まった。兵達が「許可書を」と言ってくるが、拓海は兵達の言葉を無視して長の間の扉に手を掛けようとする。
 

「た、拓海さま!」

「許可書が無いのに入られては困ります。お願いですからお止め下さい」


 慌てて兵達が制してくるが拓海は無視して長の間の扉を開いた。
 中には仕事をこなしている狐夜の長・狐夜碧子がいた。身を竦めてしまうようなシビアな眼を拓海に向けてくるが、それさえも拓海には効かない。
 「失礼致します!」大袈裟な声を上げ、兵達の手を振り払って中に入ると碧子の机の上に書類を感情と共に叩き付けた。
 予想していたのか碧子は兵達に下がるよう命じる。困惑している兵達は碧子に会釈し、忍び足で長の間を出て行った。
 パタン…、と扉の閉まる音を合図に碧子は軽く息をついて拓海を見据える。

「物事を話す前に、その態度は頂けません。狐夜拓海。礼儀を弁えなさい」
「失礼ながら礼儀など気にする余裕はございません。碧子さま、これはどういうことでしょうか?」
「書類に書かれてあるとおりです」
「それが納得いかないのです! 何故、狐夜を四天守護家を追放されなければならないのでございましょうか!」
 
 書類に書かれていたのは『四天守護家追放』の内容。
 自分は四天守護家から追放されるというのだ。理由は薄々感じつつも納得がいかない。
 抗議の声を上げる拓海に碧子は淡々と答える。



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あきゅろす。
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