018
雪之介は、無我夢中でその場から逃げ出した。
疲れ切っている筈の体から信じられないほどのエネルギーが沸き起こり、普段では考えられないスピードで家路を走り抜ける。
見慣れた自販機、電柱、民家に交番、そんな景色の一部なんて目もくれず雪之介は何もかも捨て去るように走り、家に駆け込んだ。
「ハァッ、ハァっ……ヤラかしちゃった」
玄関のドアを閉めた雪之介は、その場に座り崩れる。
こめかみや額に滲む汗を拭うことさえ忘れて雪之介は顔を歪めた。
「聞かれたッ。本条さんに、乙川さんにっ…ふーちゃんにっ」
あれほど気を付けていたというのに、瞬く間に隠していたモノが外に出てしまった。
誰よりも知られたくない人に正体がバレたショック、そして皆を裏切った罪悪感が一気に襲ってくる。
「分かってたじゃないかッ! 僕は、僕は、ずっとみんなを騙してたことッ……分かってたじゃないか!」
だけど、バレる日が来るなんて思ってもいなかった。
雪之介は自分の膝を叩き、下唇を噛み締めた。
「こんなことならッ、もっと考えて行動すれば良かった」
けど、後悔しても後の祭り。
視界が白く霞んで見える。眼鏡を外し、雪之介は汗臭い腕で目を擦る。
今日、体育祭で流した汗が目に染みるせいなのか、それとも一種の感情のせいなのか、目頭が疼いた。
「どうして……どうして、僕は、雪童子なんだろうッ」
どうして、皆と一緒じゃないのだろう。
誰を恨めばいいのか分からない。誰に八つ当たりすればいいのか分からない。誰にこの感情をぶつければいいのか分からない。
ただただ、妖怪として生まれた自分を恨みたくなった。
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