017 否定は出来ない。 だって、否定すれば自分自身を否定することになるのだから。 何も言えず、説明できず、ただただ立ち尽くしていると、菜月が自分達の間に割って入った。 「そこまでだよ。冬斗さん」 「退けよ。菜月先輩」 「雪之介さんは俺達と話してるんだ。それに、君達には聞かれたくないんだよ。分かってあげて」 「分からねぇ! 分かって堪るか!」 それでも菜月は「分かってあげて」と言い、自分を助けてくれた。 動揺している自分にとって、これ以上に無い助け舟だった。 「日を改めようか?」 「ああ、あたしはそっちの方がイイと思うよ。雪之介も、言える状況じゃないだろうしね」 「そうだね。雪之介さん。あかりさんから、俺達の店の電話番号を聞いておいて。電話で日を決めよう」 風花の気遣う優しさが嬉しかった。 菜月の気遣う温かさが嬉しかった。 それ以上に、自分の正体をバレた事が悲しかった。 どうにか声を振り絞り、雪之介はあかりに言う。 「……そうします。本条さん、今日の夜、電話掛けるね」 「え、あ、うんー……あ、ユッキ!」 最後まであかりの言葉を聞くことはデキなかった。 呼び止めるあかりの声に振り向くことがデキなかった。 後ろにいる友達に顔向けするなんてデキなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |