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その瞬間、雪崩が起こった
 


 やっとのことで、半日かけて行われた地獄のような体育祭が終わる。

  
 体力を消耗してしまった雪之介はフラフラ状態だった。
 疲れ切ったというよりも、妖力を使い切った。今の自分には妖力の欠片も残ってはいない。

 それほど今日の暑さに参っていて、妖力を使わなければいけない羽目になったのだろう。
 自分の体、どうしてしまったのだろうか?

 不安を募らせながらも雪之介は冬斗達、そしてHRが終わるまで待ってくれていた風花と菜月と共に家路を歩いていた。
 
 風花と菜月は今日体育祭に呼んでくれたあかりにお礼を、と律儀に待っていたそうな。
 ネイリーやジェラールの分までお礼を言う為に、待ってくれていたなんて2人は色んな意味で大人だと雪之介は思った。
 
 分かれ道に差しかかり、風花と菜月は「自分達はこっちだから」と右側の道を進む。
 自分達は左側の道を進むのだが、雪之介は疲れ切った顔を上げ遠ざかる風花と菜月の背を見つめた。


 今しか、きっと言うチャンスは無いと思う。


 落ちそうな眼鏡を掛け直し、自分達の家に帰るあかり達に雪之介は先に帰るよう言った。


「どうしてだ? 何か忘れ物でもしたのか?」

「ちょっとね。とにかく先に帰って!」


 お願いだから先に帰っててと3人に言うと、雪之介は風花と菜月を追い駆けた。
 疲れている体に鞭打って走ったおかげか、2人に追いつくのに時間が掛からなかった。
 
 追い駆けてきた自分に、2人は驚きの顔を作っていた。
 息を切らしている自分に、菜月がどうしたのか? と訊ねた。


 雪之介は額に滲んだ汗を手の甲で拭うと、風花の方を見た。

 
「悪魔……さんですね」
「……なっ、」
「なんで、風花の正体……」


 やっぱり、菜月も知っていたのだ。
 知っていて風花の側にいるのだ。羨ましい。
 
 そういう風に包み隠さず側にいる風花が。
 また風花のことを理解している菜月が。


「僕、途中から、風花先輩の正体に気付いたんです。そしてきっと、ネイリー先輩やジェラール先輩は、僕のこと、気付いていたんだと……風花先輩、菜月先輩、僕は」
 
 
 父母がいない今、頼れるのはきっとこの人達しかいない。
 だからこの人達には言おう。
 自分の正体を。自分の悩みを。自分の体のことを。

 息をたっぷり吐いて雪之介は笑顔を作る。
 大丈夫、この人達なら自分を蔑視することも無いし、馬鹿にすることもないし、きっと信じてくれるだろう。


「人間じゃないんです。追って来た理由は、少し、ご相談があるんです」


 2人は少し驚いた顔をした。
 しかし、表情直ぐに戻してくれる。それが嬉しかった。



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