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転機の入学式
 

 
 ―――自分の入学した高校は、偏差値が真ん中辺りの公立高校。
  
  
 今時珍しいことに男子は学ラン、女子はセーラー服だ。
 受験をする時、担任の先生から「お前ならまだ上をいけるぞ」と言われたが、自分は敢えて此処を選んだ。特別な理由はない。
 ただ家が近いことを理由に、この高校を選んだ。
 

 母の雪江は、雪之介の学ラン姿を見てベタ褒めしていた。


「ユキちゃんは何を着ても似合うわ〜」
「そ、そうかな?」
「だって辰之助さんと私の子だもの」

 全く理由になっていない理由を言い切り、雪江は雪之介の頭を撫で回した。
 親馬鹿っぷりに雪之介は失笑して、ズレた眼鏡を掛け直した。

 父母は自分が公立に受かったことを自分のことのように喜んでくれた。
 公立に行けば学費が安くなるから嬉しい、という事ではなく単純に自分の合格を喜んでくれた。


 父母が喜んでくれるから、合格することに少しは嬉しいものを感じている。
 
 
 でも素直には喜べなかった。
 何故ならば、高校という学校生活にあまり期待をしていなかったからだ。

 こういったら両親に申し訳ないが、実際のところ合格してもあまり嬉しくなかった。

 合格発表の日、自分の受験番号を見つけ「あ、合格してる」の素っ気無い一言が漏れただけ。周りが喜んでいる中、自分は妙に醒めた感情だった。


 こんな感情を抱いたまま、入学式を迎えるなんて少し後ろ髪を引かれたような気分。


 体育館で入学式が終わった後、割り当てられた自分の教室に入り、クラスメートとなる人々の顔を見て後ろめたい気持ちはより一層高まった。
 中学とは違い、見覚えの無い顔触ればかりで皆少し緊張しているようだ。

 それでも時間が経てば、皆、適当に自分に合う友達を見つけ始めるのだろう。

 小さな溜息をついて、雪之介は自分の席に着いた。
 廊下には保護者が待機している。自分の母もきっと待機しているのだろう。
 何度も小さな溜息をついていると、自分達の担任らしき女性が教室に入ってきた。

 静かな教室に担任が入ってきた為、沈黙へと移り変わる。
 沈黙を打ち破るように女性が笑みを浮かべて、自己紹介を始めた。
 そしてその後、学校の説明と手に持っているプリントの説明を始めた。


 聞かなくても後で、プリントを見れば分かるだろう。


 雪之介はそう思って、担任の話を聞き流していた。
 窓側の席だった為、自分の直ぐ横には窓がある。ボンヤリと頬杖ついて窓の外の景色を眺めることにした。外から見える景色がセピアに見えるような気がする。



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あきゅろす。
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