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望みを叶えてあげよう、貴方のために。

  
 風に舞う洗濯物、同じ風に吹かれて花壇に植えてある花々が左右に揺れ踊っている。でこぼこした地は踏み慣れた土。その世界はいつも見る景色、気付いたら俺は自分の家の庭に立っていた。
 そっと頬を撫で過ぎていく風を感じながら、俺はぐるっと世界を見渡す。周りには誰もいねぇ。静寂が包む庭にぽつんと俺は佇んでいた。とても寂しい感情を抱く。
 
 母上、柚蘭は、家の中にいるのか。人肌恋しくなった俺は家族を探しに歩き始める。
 けど、どんなに歩いても歩いても景色は変わらねぇ。俺は庭にいた。なんで庭から出られないんだよ。俺は妙に苛立って歩調を速めた。
 
 変わらない景色に、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうになった頃、白くて小さな塊を見つけた。近付いてみれば、その場にしゃがんで自分の手の甲で目を何度も擦っている小さなガキが、俺の弟が、そこにはいた。
 肩を震わして声を殺して泣いている弟からは、嗚咽の漏れる声が聞こえてくる。

 俺は迷わず弟に歩み寄る。
 グズグズ泣いている弟の前に立って見下ろしても、弟は全く気付かない。ただ只管、声を殺して泣いていた。こんな風に弟が泣いているなんて珍しい。いつもは気持ち悪いくらい情を表に出さないくせに。こいつも泣けるんだな。
 
 心の片隅の冷めた感情が、俺を支配する。

 
「何してるんだよ」
 
  
 声に反応して弟は顔を上げた。
 
 俺と目を合わせた瞬間、大きなこげ茶の瞳が揺れて怯えた顔を作る。正直戸惑った。まさかそんな顔をされるなんて思わなかったんだ。冷めた感情が音なく溶けていく。気持ち悪いって思ってた感情がどっかに消えた。
 歩み寄ろうとすれば、弟は一層顔を歪めて粒のでかい涙を零す。ンな顔すんなよ、良心痛むだろうが。俺は少し距離を置いて、膝を折ると弟にもう一度声を掛ける。今度はさっきよりも少し優しめに。

「何、してんだ?」
 
 弟が目を擦りながら、俺を見つめてくる。そして首を横に振ってきた。何もしていない、態度で伝えてくる。「じゃあ何で泣いてるんだよ」質問を変えてみる。
 
 
「みーんな…俺のこと、きらいだから」
  
 
 鼓動が鳴る。
 馬鹿みたいに鼓動が聞こえる上に、口腔の中の水分が急激に消えていく。
 
「俺、にんげんだから、変だから、みんなが俺のことをきらうんです。だれも見てくれない。だれも、俺を見てくれないんです。だれも助けてくれなかった。だれも」
 
 背中に嫌な汗が伝い落ちる。
 心苦しさが息苦しさと同時に襲ってきた。

「なにも悪いことしてないのに。なにもしてないのに、俺、きらわれちゃった」

 何も言えない。言えるわけない。だって俺もそのひとりだから。

「俺なんて死んじゃえばいい。だから、俺はコロされた。母さまに、姉さまに、兄さまに、」
 
 言葉を失う俺に対し、弟が俺の顔を見て一変するように破顔させてきた。

 


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あきゅろす。
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