6-15
「こんなところで思いもよらぬ仕事が入ったね」
「ホントだよ。あたしの誕生日に元カレに会うなんて……でも、ま、今のあいつ幸せそうだし。イイんじゃないかな。そう思えるのは、あたし、変わったんだと思うよ」
「それが、何かを認める。理解し合うってことじゃないかな?」
「……うん。かもね」
不思議な気持ちを抱く。
風花は表情を和らげてパスタを入れた。
「でも、デートどころじゃなくなったね。仕事がひと段落したら、仕切りなおしだね」
「マジ?!」
「マジだよ」
風花が指を鳴らして喜ぶ。菜月が笑みを深め、「仕事が終わってからね」と念を押した。
だけど今日ケーキは買うつもりだ。だって風花の誕生日は今日なのだから。
しかし風花は「ケーキよりホットケーキ」と菜月に言う。
ケーキ屋のケーキより、誰かさんの作ってくれるホットケーキがイチバンだと言うものだから菜月は照れた。
ふと他の客がいるのにこんな会話をしている自分達は非常識者だねぇ、と風花は微苦笑した。
自分達以外に客が1組いるのに、こんな会話をする。
きっと客には恥ずかしい奴等と思われてるのだろう。
すると、菜月が営業スマイルを浮かべた。
何故、此処で営業スマイルを浮かべるのだろうか?風花が首を傾げる。
しかも、菜月の笑み、少々怒っているような。
疑問ばかりが頭に浮かぶ。菜月がフォークを置くと、小さなジェスチャーをする。
3年の付き合いは此処で抜群に効力を発揮するものだ。風花は「あー」と皮肉の篭もった声を漏らした。
菜月は何処からか取り出した電卓を叩き始める。
「風花の壊したテーブル代(先日、風花が勢い余って壊した)それから、今日されたことを2つ合わせますとお値段が少々高くなります」
「それプラス、あたし達の気持ちも追加」
「はい、追加しました。お値段、これくらいになりましたが?風花さん」
「上等な金額です。菜月くん」
営業スマイルを浮かべたまま、風花と菜月は腰を上げる。
向かうは自分達以外のお客のもと。
2人はそのお客のテーブルに仁王立ちする。お客はメニュー表を見て俯いているが、もう逃げられない。
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