神様の仕打ちか……。
やはり神様は悪魔様の日頃の行いを陰に隠れながら見ていたらしい。
まさか、悪魔様の誕生日に悪魔様が魔界にいた頃お付き合いしていた元カレとお会いするシナリオを書いて下さっているなんて。
誰が予想していただろうか?こんな事態。
目の前に並べられた食事を食べながら菜月はそう思って仕方がない。
目の前の彼女といえば、「まさかあいつが此処にいるなんて」とブツブツ文句を言いながらお食事をされている。
そんな風花に対し、ビクビクとしているのが麻人だ。
必死にカウンターに隠れて様子を窺っている。
小波は少し困った様子で、自分達を見ていた。
菜月は「すみません」と頭を下げてしまう。
小波はいえいえ、と微苦笑しながらも溜息をついている。
菜月もまた溜息をつきたくなった。
だって、まさか、風花の元カレが此処にいるなんて……現在彼氏のポジションにいる自分としては複雑な心境だ。
小波もきっと心境は複雑だろう。
麻人は風花をジッと見て「お前」と風花に何か言おうとしている。
風花は「ああン?」とヤンキーのように声を上げながら、麻人を睨んだ。
ビクッ、とカウンターに隠れながらも麻人は果敢に口を開いた。
「人間界に来ても、男に貢がせているのかよ」
「ンだって?そういう塩峪、あんたこそ人間界の女を口説きまわってるんじゃないの?」
「うっわー!北風の悪魔様に言われたらお終いだぜ!」
「ナンパ好きの悪魔だった塩峪麻人様に言われたくないねぇ!ぶっ飛ばすよ!」
「そ、それは勘弁……くそう、恐ぇ」
どうやら麻人という青年は、風花と同じように悪魔のようだ。
菜月にとって悪魔は気の強いイメージしか持たない。
だから、小声で反論する麻人の情けないと思った。
けれど、なんだか、自分と重なるような気がするのは何故だろう?菜月はしみじみそう思った。
風花はフンと鼻を鳴らす。パスタは美味しいらしく、食事の進むペースが速い。(もしかしたら自棄食いをしているのかもしれないが)
と、なにやら思案していた小波が意を決した顔をした。
こちらに向かって歩いてくる。顔を青くして麻人が止めるが小波は足を止めない。
大慌てで麻人が止めに走り出す。
「小波さん!危ないからッ、うわっと!」
「え?あ、麻人さん?!」
足を滑らせて小波よりも先に風花達の方へ。
しかも、風花の方に突進してしまった。
見事、風花は麻人と共に床に転がってしまう。
「ッ、塩峪ッ、あんたー!」
「悪いッ、悪いィー!わざとじゃないんだ!」
「ウルサーイ!とにかく退けー!」
「は、はいぃぃぃ!すみませんぅぅ!」
菜月が床を見る。麻人が足を滑らせた場所は濡れていた。
少し目を細めたが、床に転がっている2人に視線を送る。
平謝りする麻人に風花が握り拳を作ってふるふる震えている。
小波が「すみません」と麻人と共に謝ってくる。小波には罪が無いので、風花は麻人を睨んで椅子に座り直す。
「まったく」文句を言いながらフォークを手にすると食事を再開した。
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