水入らずにしたいのさ!
* *
からっと晴れた空は日頃の悪魔様の行いを見ているのだろうか?
いやきっと雨になったら怖いと臆して、お天道様はからっと晴れた空を悪魔様にプレゼントしたのかもしれない。
天を仰いで菜月はしみじみそう思う。
幾ら雨好きの悪魔様でも、昨日ばかりはテレビに映っている明日の天気予報を解説してくれていたニュースキャスターに向かって、「晴れにしないと……」と関節を鳴らしていた。
ニュースキャスターに言っても仕方が無いような気がするが、菜月はあえてツッコまなかった。
さて、本日の菜月も風花も普段とは違う服装だった。
風花はニットワンピースを着て非常に女性らしい格好をしている。(いつの間にニットワンピースを買ったのかな?なんて菜月は思った)
菜月も本日は、カッターシャツとジーパン……という格好ではなく、パーカとVネックTシャツにデニムパンツ、さらにはキャスケットを被っている。
菜月自身、此処までするつもりはなかった。
寧ろ、普段着でデートをする予定だった。
が、それを拒んだのは銀色の悪魔様だった。
―――話は遡ること、20分前。
菜月は溜息をついていた。
とにかく深い溜息をついていた。
寝室前の廊下に寄り掛かり、自分の腕時計を何度も確認する。
そしてまた溜息。何時まで待たせるのだろう。
今日は風花の誕生日、2人で(とても希少な)デートをすると約束しているのだが、風花の準備がまだのようで寝室に引き篭もっている。風花はもともと着替えるのに時間が掛かる。(お洒落さんだから、時間を掛けて化粧をしたり服を選んだりするのだろう)
そんな彼女、本日は3倍時間が掛かっている。
菜月はぼんやりと寝室前で待っていた。
何度、なんど、声を掛けても「あと少し」の一言。
嗚呼、このままでは日が暮れるのではないだろうか?
そんなことを思っているとやっと風花が出てきた。
やっと出てきた、と安堵して風花を見た瞬間、いつもと雰囲気が違うことに呆気にとられてしまった。
ボーイッシュな服を着ることが好きな彼女。
でも今日は、女性らしい格好をしている。
目が点になっている菜月に「どうよ?」と胸を張った。
開いた口が塞がらない菜月に「見蕩れたな?」と風花がからかう。
……図星。
菜月は、回らない思考回路をどうにか動かし、何か言う言葉を見つけようとするが何も見つからない。
と、風花が素っ頓狂な声を上げ菜月の服装を指差した。
「あんた、なんで普段と同じ服装?!」
「へ?だって」
「このお馬鹿、信じられない奴だね!特別な日に普段着で行く奴があるか!着替え直して来い!」
「そ、そんなーっ、そう言われてもッ、俺、服装、よく分かんないし」
「仕方の無い奴だね!ちょっと来いって」
「え、えええええ?!風花さん!」
折角出掛けれると思ったのにィー!
そう心の中で叫んでいる菜月を余所に、風花は「馬鹿だろ」と襟首を掴んで菜月と共に寝室へ入ったのだった。
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