少年からのお誘い
「……はい?」
菜月の一言に風花は思わず箸で掴んでいた里芋を皿の上に落としてしまう。
勢いよく皿の上に落としてしまった里芋は、皿の上でやや形が歪んでしまっていた。
しかし風花にはそんな里芋の哀れな姿など目に入らない。
顔だけでなく耳まで赤くして目の前の煮物を口に入れている菜月に、もう1度言うように訊ねた。
菜月は唸り声を上げつつ「だから」と声を漏らす。
「今週の日曜ッ、デートしようって誘ってるの」
「誰と誰が?」
「俺と風花が」
刹那、風花は箸を叩きつけるようにテーブルに置いて身を乗り出す。
「あっ、あああああああ?!あたしとあんたがー?!」
「だって、ここここここ今度の日曜、風花の誕生日でしょ。だからッ、折角だし、その、たまにはッ、2人で……その。いや、俺さ。誕生日プレゼント、考えたんだけど。思い付かなくてさ。その日は、風花の行きたい場所にッ、その、ふふふふ2人で……なんて。やややや、ヤなら、皆で何処か行くでも」
「マジ?マジで?ホントに?!冗談じゃないよな!もし、冗談だよ〜ん!なんてクダラナイこと言ったら絞め殺すよ!」
「うわわわわっ、風花!風花さん!落ち着いて下さい!俺、そんな口調で冗談なんて言わないって!」
目をギラギラ輝かせ迫る風花は、「嘘じゃないだろうね!」と菜月の胸倉を掴んで激しく揺すった。
悲鳴を上げつつ、菜月は何度も頷いた。
風花が信用するのに暫し時間が掛かったが、風花が夢じゃない、嘘じゃないと理解した途端、菜月の掴んでいたカッターシャツを手放し、パァと辺りに花を散らし始めた。
人生薔薇色というキャッチフレーズがあるならば、今の風花の思考はハッピーレインボー。虹色だろう。
激しく揺さぶられグッタリとしている彼氏なんて脇目も振らず、自分の席に座ると「デートか」と笑みを浮かべる。
日頃、家事ばかり勤しむ能天気ピュアボーイが、こんな嬉しい爆弾発言を言ってくれるなんて。
嬉しいなんてもんじゃない。感激。感涙。
しかも、自分の誕生日の日にデート。
ああ、もう、死んでもイイかもしれない。
エヘヘへ、と笑みを浮かべる風花は素手で醤油で甘辛く煮てある大根を口に放り込む。
というのも、この2人つい最近、お互いの誕生日を知った。
だから今までこんなことがなく、風花にとっては尚更嬉しい出来事だった。
花を散らし自分の世界に浸っている風花の思考の中では。
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