遠い遠い地からのメッセージ
―――来年は弟の誕生日を祝ってやれるだろうか。
空から淡い雪が降ってくる。
家路を歩いていた柚蘭はそっと空を見上げる。
掌を静かに出せば、淡い雪は自分の掌で溶け水になった。
遠くから賛美歌が聴こえ、美しい賛美の声が今日という日を祝福している。
息を吐いて柚蘭は掌を握り締める。
ひんやりと冷えた掌、冷たさが現実を教えてくれる。
「……来年はお祝い……してあげたいわ」
クリスマスイブという日に生れ落ちた末っ子を想いながら、柚蘭は止めていた足を動かし始める。
今日はご馳走を作ろう。
ご馳走を食べて母親に元気になってもらいたい。
そのご馳走を食べながら、自分達は今日という日を祝いたい。
*
「クリスマスイブ、か」
執務室にいた螺月はそっと息を吐く。
自分以外、執務室に誰もいない。皆、早々と仕事を切り上げて帰ったのだ。
螺月はワザと仕事を残し執務室に篭もっていた。
今日は何となく家に帰りたくなかったのだ。
「……来年は面と向かって云いてぇ」
おめでとう…と。
来年、自分達を憎んでいる家族の誕生日を祝えますように。
聴こえてくる賛美歌に願いを乗せながら、螺月は止めていた羽ペンを走らせ始めた。
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