5-7
当たり前のことを言った筈、なのにどうしてそんな反応をされるのだろうか?
首を傾げれば風花は呆れながらデコピンをしてきた。
痛いと文句を言うが、風花は気にすることなく菜月に真っ直ぐ言う。
「あたし、クリスマスだから浮かれてたワケじゃないし?そりゃ、イルミネーション見れるっつーのも、嬉しかったっちゃ嬉しかったし。クリスマスを過ごすっつーのも、初めてだし。この時期は、仕事入れてたし?」
「……んじゃ、なんで浮かれてたの?」
「だって、今日、あんたの誕生日だろ?だーかーら嬉しかったっつーか?」
零れんばかり目を見開き、菜月が風花を見上げる。
風花は「誕生日だろー?」と鼻先を少し赤くしてツリーに視線を戻す。
菜月は黙って風花の横顔を見つめていたが、ツリーに視線を戻し繋いでいた手を握りなおす。
たぶん、今、凄く嬉しい顔をしている。
締まりのない顔をしているだろう。
嬉しい理由は単純。
自分の誕生日を喜んでくれた人がいたから。
風花と自分は、3年の付き合いながらも、この3年間互いの誕生日さえ知らなかった。
知ったのは、あかりと知り合ってからだ。
きっと風花は知ってからずっとずっとこの日を覚えてくれていたのだろう。祝おうと計画してくれていたのだろう。
自分の誕生日を喜んでくれたのは、これで2人目……。
「風花さーん、菜月くーん。何処ですかー?そろそろ、店の灯りが落ちますよー!一緒に見ましょう!」
「あ。あかりが呼んでる」
「うん、呼んでるね」
「行こう?あの小娘、行かないと煩いよー」
「そーだね」
風花が足を2、3歩動かしあかりの声のする方へ向かう。
しかし、菜月が全く動こうとせずツリーを見上げているだけ。
手を繋いでいる為に、思うように前へ進めなかった風花は怪訝な顔をした。
早くしないと店の明かりが落ちてしまうではないか。皆と一緒に見られなくなるのだが。
どうしたのかと菜月に訊ねれば、菜月は微笑んだ。
「2人で見たいな。風花と俺だけで」
「……はい?」
間の抜けた顔を作ってしまった。
表情を崩さず菜月は言葉を重ねる。
「駄目かな?」
「いやっ、駄目っつーことはないけどー」
不意打ちだ。これは不意打ちだ。卑怯だ。
そういうこと普段言わないから、ほんと、心臓に悪いというか、鈍ちゃんの天然タラシ炸裂というか。
一歩も動こうとしない菜月は、ツリーに釘付け。
もう、皆のところには行かないと、決めているようだ。
風花が苦笑していると自分達を探しに来たジェラールと目が合う。
ジェラールは、2人の様子を見て呼び掛ける為に上げていた手を引っ込めた。
フッと笑みを浮かべて風花に手を振ると、ツインテールを揺らして皆のもとへ戻って行く。
心の中で謝罪しつつ、風花は改めて菜月の隣に並んだ。
遠くからカウントダウンの声が聞こえる。
店の明かりが落ちるカウントダウンが始まった。
10秒前になると何故か皆一斉に声を揃えてカウントを取り始める。
その声を聞きながら風花は菜月の手を軽く握りしめる。
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