5-3
ふと雪之介が、菜月の表情を見て、ン?と首を傾げた。
「元気、ないですね。菜月先輩」
「……サンタクロース、か」
菜月は沈んだように言葉を漏らす。
あまり嬉しそうな顔を作っていない菜月に、雪之介は怪訝な顔を作った。
「菜月先輩?」
「え、あ、はいっ!よ、よ、よよよ呼んだ?ごめんっ、ぼぉーっとしてたからさ!え、え、え、っと、何の話?あ、サンタクロースのロマンだっけ?」
慌てふためく菜月が冷汗を流しながら弁解を延々と述べている。そこまで言い訳を垂れなくても。
しかも、サンタクロースの話は終わったし。
もしかして…と冬斗が菜月の肩に腕を回して小声で囁いた。
「まさか、クリスマスイブ、風花先輩と2人っきりで過ごしたいと思ってたんじゃ」
「そっ、そんなことないって!皆で過ごせて嬉しいよ!」
「早く言ってくれれば、俺、手を貸したのにな。そうだよな、恋人同士だし。っつーか、先輩の思考……まさかの桃色乙女思考?」
「ちっがーう!俺はっ、別に風花と」
「あたしがなんだって〜?な〜つき?」
ギクッ、と肩を震わせ、ぎこちなく菜月は後ろを振り返る。
銀色の悪魔サマが、腕を組んで仁王立ちしている。
空笑いして、菜月は冬斗の腕から抜け出すと後退りして、そのまま逃げ出す。
が、菜月が風花から逃げられるわけもなく、マフラーを掴まれた。
蛙の潰れたような声を出す菜月に対し満面の笑顔で「あたしがなんだって?」と問う。
片手の指の関節を鳴らす風花は、非常に恐ろしい。
取り敢えず、笑っている菜月は、冷汗が流れっぱなしだ。目を逸らしながら、フルスピードで言い訳を考える。
しかし、3年の付き合いは伊達じゃない。
言い訳を考えていることを見破り、風花はクスリと薄ら笑いを浮かべて、思い切り菜月の頭に拳骨を喰らわせる。
痛いと悲鳴を上げ蹲る菜月に、「当然の仕打ち」と鼻を鳴らしてさっさと歩き出す。
別に悪口を言ったわけじゃないのに。
なんか、今日はツイてない。
やっぱり、クリスマスイブだから?溜息をついて、頭を擦る。
自分を置いてさっさと風花の後について行く、薄情者の皆の後から菜月もついて行こうと立ち上がった。
楽しそうに風花はあかり達と会話して前を歩いている。
そんな風花に良かったと思いつつも、気持ちは複雑だ。
冷え切っている手をポケットに突っ込んで、ゆっくりと歩く。
皆の前では言わないが、正直クリスマスは好きではない。
クリスマスイブも同じだ。
クリスマスの時期が来る度に、クリスマスはヤな行事だと思える。
クリスマスツリーを見ても感動はしないし、サンタクロースなんて大嫌いだ。サンタクロースはプレゼントを持ってくるというが、アレは嘘だ。
幼い頃、願ったプレゼントは1度だってくれなかった。
良い子だけが貰えるのだと、毎年言われ続けられ、良い子にしていたのに来てくれなかった。
サンタクロースとして現れたのは、自分の祖父だけ。
足を止めて溜息をつく。
クリスマスなんて嬉しくもない、楽しくもない行事だ。
街中を歩いていると聴こえてくるクリスマスソングにさえ、腹立たしいと思うぐらいだ。
頭を掻いて、気持ちを入れ替える努力をしようと心に決める。
風花があんなに楽しそうにしているのだ。気を遣わせては悪い。
今日は楽しまなければ。
頬を軽く叩いて、皆を追い駆けなきゃ!と元気よく駆け出した。
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