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*どんな馬鹿にだってなるよ(ネイリー)



 妹思いのネイリーの願い。過去話。


 * *
 
 
 病弱な妹、フィンランディアは同じ年頃の子と少し違っていると僕はつくづく感じていた。
 どういうところが違うかというと、時々大人びたことを言う。
 
 それも、大人顔負けのことを。
 
 普段、フィアの横顔は子供っぽい。
 だが、大人びたことを言う時のフィアの顔は全くの別人にさえ思えた。



「ねえねえ、お兄さま」

「なんだい? フィンランディア」


 妹に絵本を読んであげていた僕が顔を上げるとフィアがニッコリ笑ってくる。
 あどけない笑顔だなぁ。きっと他の子以上に笑顔が輝いている。僕はいつもそう思う。誰かが「妹馬鹿」だと笑ってこようが、自信を持って妹を自慢できる。
 ウム、僕は筋金入りのフィア馬鹿だな。
 フィアは大きな瑠璃色の目を僕に見せながら、微笑んでくる。
 
「おとぎ話って面白いよね。フィア、ハッピーエンド大好きだよ」
「そうだな。僕も好きだよ。こっちまでハッピーになれる気分さ!」
「ウン! フィアもそう思う」
 
 絵本を覗き込んでくるフィアが笑った。
 僕もつられて笑ってしまう。

「お兄さま。お兄さま」
「今度はなんだい? フィア」
「フィアね。こんなハッピーエンドな終わり方が良いって思ってるんだ……ハッピーエンドになれるかな? フィア自身のお話」

 悲しそうに笑うフィアに、僕は明るく言う。
 フィアにエンドはない。ずっとハッピーのままさ! と。


「なにせ僕というお兄さんがいるのだからな! フィアは幸せ者なのだよ」

「そっかー!フィア、幸せ者なんだ」


 可愛らしい笑顔でフィアが笑った。それが僕にとっても嬉しかった。
 フィア自身、自分の体調のことなんて分かっている。
 でも、僕はフィアに笑って欲しい。我が儘なことだけど、フィアに悲しい笑顔は似合わない。笑って欲しい。
 そろそろ、フィアを寝かせないと体に毒だ。僕は絵本を片付け、フィアに「おやすみ」と毛布を掛けてやる。フィアも「おやすみ」と笑ってくれた。そのまま電気を消すと、フィアにもう1度、おやすみの挨拶をしてドアノブに手を掛けた。
 

「ネイリーお兄さま。フィア、前言撤回するね。終わり方がハッピーエンドじゃなくてもイイの」

  
 僕は驚いて振り返る。
 大人びた笑顔を向けるフィアが、綺麗に微笑んだ。
 
 

「だって、今がとっても幸せだから。ハッピーエンドじゃなくてもイイの」
 
  

 フィアは満足そうに笑うと、オヤスミと目を閉じる。
 僕は部屋を出た。そして手に持っている絵本を開いた。
 
 絵本の結末がハッピーエンドのように、フィアにとって最高のハッピーエンドを迎えさせてやりたい。
 ただそれだけを僕は願った。
 妹馬鹿と思われようとも構わない。
 僕の馬鹿で妹の笑顔が消えないのなら、僕はどんな馬鹿にだってなれる。
  

 End



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