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しかし、残念なことに菜月の力は皆無。
派手な音を立てて菜月は風花の下敷きになってしまった。
後頭部を強打してしまい、菜月は悶絶する。
「ッ、〜〜〜風花っ、あのね。俺ッ、申し訳ないことに、受け止められるだけの力が」
「嬉しい。めっちゃ嬉しい」
抱きついてきた風花は本当に嬉しそうにはしゃいでいる。
女性というより、少女のような顔を作ってはしゃぐ風花に菜月も自然と笑みを零した。
純粋に嬉しい。
風花がこうやって喜んでくれることが。
こんな風に風花が喜んでくれるなら、何度だって喜ばせるようなことをしたいな。
その為にも、もっと自覚しなきゃな。恋人として。
「ピアスあんたにアゲル。あたし、今の菜月の行動に感動したしさ!大事にしろよー」
「うん、大切にするね」
「ということで、あたしも何かしないとイケないと考えた。今から呼び名を“菜月っち”にしてあげる。あたしのことは、思う存分“風花りん”と呼んでOK」
「えぇぇぇ?!今までどおりでいいじゃんかー!ヤダよ、菜月っちなんて…菜月の方が嬉しいって」
「折角あんたが、自覚してくれたんだ。始めの一歩は肝心だし?目指すは、あのバカップル!」
握り拳を作る風花に、菜月はハッと思い出した。
風花は常識はずれなところがある。
だからきっと、風花は憧れてる……常識はずれなところを、すっかり忘れてた!と菜月は顔を青くした。
「ピアス、似合ってるよ。菜月っち」
「菜月っちって呼び方ヤメようよ、風花!まだダーリンの方が!」
「あたしのことは風花りんね」
「誰が呼ぶかあぁぁぁぁ!」
菜月の叫び声が店内中に響き渡った。
それから暫く、バカップルイチャイチャに憧れた風花は「菜月っち」と「風花りん」で呼び合うようなブームにハマッてしまった。
風花に諦めてもらうよう10日ほど説得が続いたとか。
どうにか説得し、諦めてもらっても、菜月の右耳には今もダイヤのピアスが身に付けられている。
それを見る度、風花はとても嬉しそうに笑うものだから、毎度無意識の内に菜月が顔を赤くしている。
それがまた、風花にとって、小さな喜びらしい。
毎日飽きることなく、風花は菜月に気付かれないようにお揃いのピアスを見ては、笑みを浮かべている。
End
2007.09.13
改訂:2008.10.29
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