[携帯モード] [URL送信]
物足りないのならば補えばいい
 
 

 ―――その夜。
 
 
 やっぱり風花はご機嫌斜めで、口を利いてくれなかった。
 ぶっすーとしている風花は、玩具を買ってもらえなかった子供のようだ。

 口をへの字にしている風花に苦笑して家事をこなす。


 取り敢えず、まだそっとしておいた方がいいだろう。
 
 
 食事をし終わった風花は風呂に入ってくるとばかりに身に着けていたアクセサリーを外してカウンターに置くと浴室に向かった。
 この時を待っていました、とばかりに菜月はアクセサリーの中から、あるモノを手に取る。

 あらかじめ昼真に、こっそりと自分であけた箇所を触り、困ったように笑う。


「ほんと、しょうがない彼女さんだよな」
 
 
 昨日ハッキリ言ってくれれば、もっと早めにしたのに。
 いや、気付かなかった俺が悪かったのかな。


 アクセサリーのひとつを身に付け、菜月はまた家事をこなし始める。


 洗物を済ませ、食器を拭いていると、いつもは長風呂してくる風花がもう上がってきた。
 寝巻きに着替えている風花は、いつも寝る直前までアクセサリーを身に付ける。
 だから、カウンターに置いてあるアクセサリーにすぐ手を伸ばすのだ。

 風花はアクセサリーに手を伸ばして、「あれ?」と首を傾げていた。
 菜月は笑いを堪えて、食器を丁寧に拭いている。

「…ねえ、菜月。あたしのダイヤのピアス知らない?片一方ないんだけど」
「さあ、何処にあるでしょう?」
「もしかして、隠したの?」

 不機嫌絶好調中の風花が、菜月を睨む。


 その睨みさえ今の菜月には可愛いものだ。


 何処に隠したの?という眼差しに、菜月は「貰った」とだけ答えて笑顔を作る。
 えー!と叫んでいる風花は、勝手に貰わないでよとばかりに文句を言ってきた。
 立体形のダイヤのピアスはとてもお気に入りだった様子。


 モチロン、菜月は知っていた。

 だからこそ、片方貰ったのだ。


 地団太を踏んで風花は「返せってー!」と叫ぶ。

「じゃないと、心霊写真とお寝んねしてもらうよ」
「それは勘弁だね。でも返せないなぁ」
「何で意地悪するわけー!もう、あんたッ、昨日からムッカツクー!」

 もう知らん!とばかりに風花は大袈裟に足音を鳴らしながら、2階の階段を上り始める。
 そんな風花に菜月は声を掛ける。
 嫌々足を止めて風花が菜月の方を見た。



[*前へ][次へ#]

7/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!