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*色がついた生活になったよ、キミはあたしに笑いかける(風花)


 
 風花と菜月の馴れ始め話。
 自分がもしも店に転がらなければ、菜月はどう過ごしていたか…。


 * *  


 あたしが菜月という人間に知り合ったのは、ただの偶然。
 たまたま、菜月が通り掛って傘を差し出してくれた。あたしはそれを受け取って、菜月の家に転がり込んだ。


 それが知り合うキッカケ。


 菜月の住んでいる家は、もともと自営業をやっていたらしい。店をしていましたっていう面影が残っている。

 此処一人で住んでいる菜月は、あたしが来る前までどんな生活していたか分からない。
 ただ誰とも係わらないような生活はしていたんだなぁって思う。


 一緒に住んでみて、それはよく分かった。


 ボウルを泡だて器で掻き混ぜている菜月を眺めながら、あたしは菜月のアレコレ色んなことを勝手に想像してみる。


 あたしが来る前の生活風景とか、どんな心境だったかとか、毎日何を考えていたのかとか……。
 だって、菜月が自分自身のこと、あたしに全然教えてくれないんだ。想像するしかないだろ。



 っつーか、おかしくない?



 そりゃあたしと菜月って、他人だけどさ、一応仕事パートナーなんだから、もう少し教えてくれたってイイと思う。
 だんだん腹が立ってきて、あたしは頬杖ついて菜月から目を放して、ボソリと独り言を呟くように菜月に意地悪な質問する。



 あたしが転がり来なかったら、菜月はどんな生活してたんだろうねぇ?って。



 聞こえない前提で質問したつもり。
 返答なんて気にしてなかった。

 けど、菜月の奴の耳にしっかり聞こえていたみたい。
 菜月は手を止めて曖昧に笑って返答した。
 
 
「変わらない……と思う。きっと、今まで同じだっただろうね」
 
 
 曖昧に笑う菜月は、また手を動かし始める。
 あたしはちょっとばかし驚いた。
 変わらない生活、ということは人と触れ合おうしない生活をこれからも続けていたってこと?
 思わずあたし、言っちまった。
  

 
 それってツマンナくない? って。



 菜月は吹き出し「そーだね」とあたしの方を見て笑い声を上げた。
 
 

「すっごくツマンナイと思うよ。でもそれが今までそれが普通だったからさ。全然、それがツマンナイ生活なんて気付かなかった」
 
 

 風花のおかげだねと笑う菜月は、油を引いたフライパンに生地を流し込んでいる。

 ……あたし、物の見事に固まったね。石像みたいに固まったよ。

 息することも、ちょっとばかし忘れたかも。
 そんなあたしに菜月が、やっぱり曖昧に笑った。
 でも何処か嬉しそうな、そんな曖昧な笑みだった。



「今の生活ってさ。なんか、今までの生活に色が付いたみたいで楽しいよ」
 

 
 曖昧に笑う菜月の顔、あたしはさっきの曖昧な笑みよりもこっちの曖昧な笑みの方が好きだった。
 消えそうで淋しそうに笑う曖昧な笑みより、嬉しそうに笑う曖昧な笑みの方が、こっちも嬉しくなる。


 ……意地悪な質問、なるべく避けよう。


 絶対しないってことは、あたしの性格上、デキないと思うけどさ。
 なるべく避けようとは思う。

 笑ってくれるなら、あたし、嬉しそうに笑って欲しいし。 
 なんか、こう思うあたしって菜月のこと好きなんだろうなぁ。

 大好物のホットケーキを焼いてくれている菜月が、ふとこっちを見てきた。
 ジッとあたしが菜月を見ているものだから、菜月が視線に気付いたんだろうね。

 
「どーしたの?」

  
 なーんでもない。


 あたしが即答すれば、「変な風花」って失礼なこと言って菜月が可笑しそうに笑ってきた。


 前言撤回。

 今、笑っている菜月の顔の方が曖昧に笑いかけてくれる以上に好きだねぇ。


 笑顔が1番ってヤツかなぁ。


 End




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