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02


 
 真夜中、廊下を歩いていると窓枠に寄り掛かって煙草を吸っている雅陽を見かけた。
 彼が煙草を吸う姿を見るのは希少だ。素通りしようとも考えたが、鉄陽と交わした昼間の話を思い出し、なんとなく気分で赤祢は彼に歩み寄った。珍しいことに赤祢が近寄っても雅陽は気付かなかった。

 ぼんやりと何か考えている彼の手元には、煙草の箱。赤祢はその中に入っている煙草を一本頂戴した。
 「いつの間にいたんだ」自分の存在に気付いた雅陽が、怪訝な顔を作る。綺麗に無視すると片手を彼に差し出した。
 
「雅陽、火」
「へえー珍しいな。お前が吸うなんて」
「いいから火」
「……それが人に物頼む態度かよ」
「貴方にだけは言われたくないわね」
 
 早く火を渡すように催促する。
 軽い舌打ちをした後、雅陽は煙草を貸すように言う。素直に煙草を渡せば、銜えている煙草の先端に渡した煙草の先端に押し付けている。煙草に火が点いたら、それを返してきた。


「こういうのって、お互いに煙草を銜えて火を点け合うものじゃないのかしら」
 
 
 受け取った煙草を口に銜える。雅陽は鼻で笑ってきた。

「お望みならしてやってもいい。それとも口でも塞いでやろうか?」
「冗談」
「キスで窒息死させてやっから、こっち向け。息苦しそうにもがくお前の顔、見届けてやる」
「酷い人ね」
「自覚はしてる」
「優しさはないの」
「ククッ、俺に求めること自体間違ってる」
 
 せせら笑う雅陽だが、今の彼はいつもの彼と違う気がする。酷く苛立っているというかなんというか。自分に向ける不謹慎な発言でさえ珍しいというのに。煙草を吸う自分が言えることではないが。
 

「何を苛ついているのかしら、雅陽。煙草なんて滅多に人前じゃ吸わないくせに」

「さあな。仕事からのストレスかもな」

 
 誤魔化された。
 赤祢は窓枠に頬杖を付いて、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
 
「煙草、いつから吸い始めたの」
「覚えちゃねえよ。ガキん頃だったのは確かだったがな」
「どうして吸おうと思ったの」


「―――……するなって言われると、余計したくなるのが人のサガってヤツなんだろうな」

 
 なにか意を含む台詞だが深く追求はしなかった。しても彼が困るだろうから。
 
 それ以上交わす会話もなく、赤祢は雅陽の隣に並んで静かに煙草を吸った。相変わらず窓枠に寄り掛かって煙草を吸う雅陽が、一体何を思って苛立っているのか、今の赤祢には全く分からなかった。
 

 End


 
普段は赤祢に対して不謹慎な発言をしない雅陽ですが(したら面倒になるためしないのです)、酷く苛ついている時は誰に対しても不謹慎な発言をしてしまうようです。
でもそこは副元帥。心情を察して、大人の対応をしています。
 
取り敢えず、パライゾ軍元帥のせいで部下達はいつも手を焼いています。
ちなみに元帥は飲酒も喫煙もします。喫煙は何かないとしませんけど。



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あきゅろす。
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